第32話

「むぁ……2人共もう起きてたんだ……」


美海がよだれを手で拭きながらもそもそと起きた

ソファの上で座ったまま頭を揺らしている


「おはようレーカー……」

「おはよう美海……髪すごいことになってるよ?」

「マジ? どんなんだろ……あースマホ見つからないや」

「鏡見てきなよ? スマホ使うより分かりやすいよ?」


美海はローテーブルの上のお皿とか袋とかを雑に避けてスマホを探している

多分スマホのカメラを鏡代わりにするつもりだろう

それでもスマホは見つからなかったみたいだ


「いいや、メンドーだし」

「そっか。あたしも面倒だし後にしよ……」

「今何時ーって、もー昼前じゃん……まあいいや。ゲームしよう……?」

「起きて早速かっ」

「良いじゃん別にーここは私たちの部屋なんだから好きなようにできるんだって」


ここがもしホテルとか旅館だったらチェックアウトの時間に合わせる必要がある

寝起きの体で頑張って着替えて荷物をまとめたり

大学時代にみんなで旅館にお泊りしたときの朝はかなりきつかったんだよね

夜遅くまでパーティーした次の朝にはチェックアウトの準備だもん

でも今はそんな面倒なことをしなくても良いんだ

部屋万歳っ


「柚季ーこれ私のコントローラーだっけ?」

「ごめんね。分からない」

「そっかー今度コントローラー買うときはみんな違う色にした方が良いねー……」


美海はもそもそとソファから腕を伸ばしてコントローラーを手に取る

そしてそのまま対戦ゲームのソフトを起動した

そしてあたしに目線を送った


「ほれ玲香、柚季、やるよ?」

「はいはい」

「うんやる。あれ、私のコントローラーどこいったっけ……?」

「あー下に落ちてるよ。テーブルの下」

「本当だ……んしょっ」


柚季はやっとあたしの体から離れた

ちょっぴり寂しい

柚季の体って本当に温かったんだね……


「あっポテチ残ってる……もーらい」


美海は昨日使っていた割りばしを手に取ってポテチを軽くつまんだ


「あーっピザ一切れ残ってるよ。誰か食べない?」

「あたし食べるよ」

「ほれ玲香や。あーんするのじゃ」

「あーむっ……冷めてる。でもウマひっ」

「ポテトも残ってんじゃん、柚季食べる?」

「うん……おいし」


柚季はこんなにだらしないのってあまり好きじゃない

朝起きたらあたしと美海のために真っ先に家事をするみたいだし、あたしと美海がだらしなくお菓子をつまんでいたら怒る

でも今日はみんなで特別なパーティーの後というのもあったのか、柚季は何も言わなかった

それどころか柚季も一緒にあたしたちとダラダラするつもりだ

あたしはそんな珍しい状況に少し笑った


「おまたせ美海、玲香っ始めよ?」


ポテトをもぐもぐ食べながらコントローラーを手に取った柚季があたしの隣に戻ってきた

流石に両手が塞がってるのであたしに抱き着くことはできないみたい

それでも肩と腰をぴったりあたしにくっ付けてきた

どうしたんだろうあたし、柚季の体が当たる度に嬉しくなるようになっちゃった


「ね、柚季。今は寝起きだからあたし達でも美海にも勝てるかもよ?」


あたしは胸のドキドキをごまかすようにゲームの話をした

柚季はあたしの方へ顔を向ける


「うん。昨日の美海は強かったもんね。今ならきっと大丈夫だよっ」


ふんすっと口元に手で握ったコントローラーを当てた

ごめん美海。寝起きじゃなくても柚季のこのかわいさがあれば君にも勝っちゃうよ


「そう言われたらやる気出てくるなぁ? 玲香も柚季も上手いけどさ。あたしは寝起きだって負ける気はないぜ? むしろ良いハンデなくらいだよ」

「言ったな?」

「ああ言ったともさ玲香や。柚季ともどもぶっ飛ばしてあげようぞ!」

「美海ー? 私だって成長してるんだから、油断してると驚いちゃうよ?」

「ほほー。柚季ちょっと吹っ切れてるじゃん? でも簡単には負けないかんねっ」


そうしてあたしたちは対戦ゲームで遊んだ

まあ美海を圧倒するどころか普通に負けたんだけどね

柚季との2人がかりだってのに、すぐにあたしたちの連携を把握して潰された

まだまだ美海にはかなわないってことか……


「いやー最初はちょっと手こずったけど勝てたぜぃ!」


美海は勝ち誇った顔でVサインをあたしと柚季に向けた


「おのれ美海……というかどんだけ強いのさ」

「確か毎日ランクマに潜ってるんだよね? やっぱり美海は強いよぉ」

「毎日ネット上で猛者たちと切磋琢磨してるからねぃ! 簡単には負けないよ」


流石に毎日ネットで対戦してる美海に勝つのは難しいか……


「ほれほれ勝者へのご褒美を渡したまえ!」

「ひゃっ!?」

「もう美海っ!?」


美海は自分のソファから立ち上がってあたしたちのソファへと飛び移った

あたしと柚季の間に挟まって、腕を組んできた

そしていつの間にか手にしていたスマホで自撮りをした


「そういえばさ」

「んー?」


あたしはふと思ったことを聞いてみたくなった


「美海、昨晩も写真撮ってたよね。あたしたちと一緒に」

「玲香と私と美海の写真ね、それがどうしたの?」

「美海、その写真をSNSに載せるって言ってたよね。何か反応はあったの?」


昨日のパーティーでテンションが上がりまくった美海は何度かスマホで写真を撮っていた

そしてそのままSNSに載せようとスマホを弄っていたんだ


「お、やっぱり気になる?」

「そりゃあ自分が写った写真なんだから気になるって」

「私も少し気になるかな、メッセージとか来たりした?」


柚季も美海に体を寄せてきた

まあ気になるよね、自分が写ってるんだから


「実はねー……全然分かんない」

「なにそれー……」

「あんまり気にならなくってねー、せっかくだから見てみるっか……あ」


スマホを握っていた美海が固まった

そしてローテーブルにスマホを滑らせた


「どうしたの? 何かやばいメッセージとか来てた?」

「いやいや。充電切れだよ……玲香ーモバイルバッテリーとか持ってない?」

「あたしが今持ってる訳ないでしょ? ここ自宅なんだから。自分の部屋で充電してきなよ」

「むー分かったよ……後でする。面倒だし」


美海は唇を尖らせてあたしの方に体を寄せてきた

SNSの反応を見ようとしないのはちょっぴり釈然としないけど、あたしだって自分のスマホを探すのも面倒だし人のこと言えないか

今はしばらく3人でのんびりしよう。頭をすりすりと擦り付けてくる美海を雑に撫でながらあたしは今の幸せを噛みしめていた

昔は親友だったけど今は彼女の柚季、そして親友であり今はペットの美海

大切な2人と一緒にずっとこうして生活したいな

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