第30話
「ふぅ……やっと帰って行った。あの人たちちょっとしつこすぎたよね? 柚季、美海?」
柚季を復職に誘っていたスーツの2人を追い返した後、あたしは両腕を腰に当てて息を吐いた
まくし立てすぎたしかなり強引な方法だったかもしれないけど、あの手の人間にはこれくらいがちょうど良かったのかもね
せっかくの3人の暮らしを邪魔されたくないし!
「……2人共、どうかしたの?」
柚季も、美海からも返事がなかったので後ろを振り返る
それと同時に柚季があたしに向かってきた
「玲香っ……!」
「うわっと! 柚季っ?」
「玲香……玲香……! ありがとうっ……」
「もう柚季ってば……泣いてるの?」
柚季はあたしに抱き着いてすすり声を挙げている
あたしの視界には笑顔だけど呆れたような口調で話す美海がいた
「もう玲香は玲香だなぁ。分かるでしょ? 柚季は泣いてるけど喜んでるんだよ」
「そう……だよね?」
あたしはどうにも柚季の涙に敏感になってるみたい
分かるでしょ? って、いやいきなりだったから混乱しただけだっての……
「玲香っごめんね。私のために……っ」
「約束通り柚季を守っただけだよ……そのね? 柚季、あたしこそありがとう。あたしと美海を選んでくれて」
「うんっ……私、私……玲香が彼女で良かったっ……」
「私も柚季が彼女で良かったと思ってるよ。それに……ほら」
「……そうだねっ」
あたしと柚季は片腕を開けて、その腕を美海に向けた
美海は吸い込まれるようにあたしと柚季に近づいてくる
「……玲香、柚季っ」
美海も入れて3人で抱き合う
「美海もありがとう、玲香と一緒に助けに来てくれて」
「美海がきっかけであたしも最後の攻勢ができたんだよ。ありがとう」
「良いんだよ。2人のためだもん!」
美海の目にも一筋の涙が垂れていた
「ホント、玲香も柚季も世話の焼ける飼い主たちなんだからーっ……へへへっ」
「はいはい。早く仕事見つけますよっ」
「そんなの必要ないって言ってるのにぃー」
柚季と美海、あたしの大好きな2人の体はとっても温かくって。あたしの選択は間違ってはいないんだってことが実感できた
「えへへっ2人共、大好き!」
「わたしもだぜぃ!」
「あたしも、2人が」
ぐぅー……
あたしのお腹が暴れた
こんなに大きくて長い音ってなるんだって驚くくらいあたしのお腹の音はすごかった
今日は晩ごはんを食べるのが遅れたのと、さっきのスーツの2人を追い返すのに体力と気力を使ったからかな……
「あっはははははっ! はははっあはははっ!!」
「みっ美海笑いすぎ! そりゃ空気読まなかったのは悪かったけどさぁ!」
「いやだからってこんなタイミングでっ……はははっ! 玲香ってホント締まらないよねっ!」
美海はあたし達から離れてお腹を抱えて笑っている
こいつは後で仕返ししてやる
「ごめんねお腹空いたよね、すぐにご飯作るからっ」
柚季もあたしから離れてリビングに向かおうとする
「いやーでも柚季、今からご飯を作るのってさすがに無理じゃない……?」
「あ……そだね……」
玄関先に置いてある時計。いつか仕事に行くことがあったら出発前の時間を確認するために買っておいた時計だ
結果仕事がなかなか決まらないせいで、この時計の利便性が全くないんだけど、まさかこんな状況で使うことになるとは
「ご飯作り始めたばっかりだったよね?」
「うん。だからあんまり進んでないの。ごめんね……」
「謝るの禁止っ。美海っ今日はさ?」
「分かってるよ。今日は宅配にするんでしょ?」
「うん。今から柚季に作ってもらうのも悪いし。どうかな?」
「良いに決まってるって! それに……」
美海はタタタッと小走りであたしと柚季の前に出て、それから振り返って両腕を広げた
「せっかくだからさ。柚季が残ってくれた記念にパーティーしようよ! 盛大にさ!」
「良いの? 美海、私のためになんて」
「柚季だからしたいんだよ! 玲香だってそうでしょ?」
「もちろんだよ。ね、柚季。今夜はパーッと遊ぼうよ。大学の頃みたいに!」
へへへっと笑う美海とあたしを見て、柚季は
「……分かった。今夜はたくさん3人で遊ぶね!」
まだ目の端に残っていた涙を拭いて、両手を握って笑ってくれた
今日は眠くなるまで遊ぼう。あたしの大好きな彼女とペットと一緒に!
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