第29話
「柚季は……加賀さんが稼げるかどうか、立派な人かどうかなんてどうでも良いことじゃないですよね? お金なら私が代わりに出せば良いんですしこんな私でも親友として見てくれているのです。それだけで立派な人ではないでしょうか?」
「お金を出すって……生活費やらなにやら。あなたにそんなお金なんてあるのですか? あなたが我が社で勤務されていたときとあまり変わってない様子ですが、どうやって大の大人を生活させているのですか?」
スーツの人は当然の質問を美海に投げつけた
美海はスマホを取り出してアプリを見せようとしたけど、その前に別のスーツの人が耳打ちをした
「待ってください……桑原美海って……!」
「……まさかっ、あの桑原が……!」
「あのアプリも、このアプリも、みんな……!」
「全部私が作ったんですよ。あなたがたのおかげで私は独立して立派なプログラマーになれました」
美海はどれだけたくさんのアプリを作ってきたんだろう
まああたしにはよく分からないから深くは聞かないけど
「それでは、加賀さんは自分で働かずに私にお世話になっている身です。しかしその状況に甘んじることなく自分自身で仕事を探したり私のために家事をしてくれています。それに私や玲香……この三森さんと一緒に過ごす時間を大事にしてくれています。そんな柚季は、少なくとも私から見れば立派な人です。お金を出している私がそう思っているのならそれで十分です」
「し、しかし……それでは人として論外でっ」
「今の状況で一番大事なのは加賀さん本人の意思です。その本人が行きたくないと言っているのならそれでこのお話は終わりじゃないですか?」
美海……あたし達にあれほど仕事を探さなくても良いとは言っていたし求人誌を眺めるあたしと柚季を見ていつも頬を膨らませていたけど、あたし達の姿勢は伝わってたんだ
……とはいえ中々仕事を決められないあたし達に胸を張れる資格なんてないんだけどね……
「ですがね。加賀さんに復職してもらわないとわたくし共の面子が……! 」
スーツの人はまだ諦めなかった。柚季の意思は伝わってるはずだし美海の言い分もあのスーツの人たちは分かってるはずなんだ
それでもまだ食いついてくるなんて、そろそろしつこいよね
あたしは前に乗り出した
「柚季は……あたしの彼女なんです!」
「……え?」
「玲香っ……」
スーツの2人は少し固まったけど、さっきの美海のペット宣言で慣れたのかすぐに反論しようとした
どうせ嫌味でくだらない反論なんだ、遮って続けてやるっ
「あたしは彼女として柚季を守りたいんです、だから……あたしの彼女を連れて行くのはあたしからもお断りします!」
「何を……!」
「訳の分からないことをっ!」
「あたしも柚季と同じタイミングで仕事をクビになりました。その後柚季と2人で会った時に気づいたんです。仕事でどれだけ頑張ろうが会社の中で立派になろうが一度クビになればみんな崩れて無くなってしまうって、会社の中の人間関係もなくなった。そんな状況でも柚季はあたしに本音を打ち明けてくれたし頼りないあたしに着いてきてくれたんです。美海は仕事のないあたしと柚季を養ってくれていますっ。お金とか立場よりも……辛いときに一緒に助けてくれる人たちの方が大切なんです!」
「玲香……私……っ」
「……へへっ」
柚季と美海の反応も見ずにまっすぐにスーツの人たちを見る
仕事をクビになってからの約1か月、失ったものは大きいけど大切なものは見つかったんだ
それらは元々持っていたものだけど、昔よりも輝いて見える
「あたしは頼りないけど、彼女の柚季を守っていきたいし親友……いや、ペットの美海も大事にしたい!」
あたしは両手を握りしめて、あたし達から柚季を引き離そうとする人たちに向かって言った
「だから……あたし達の生活を邪魔しないでよっ!!」
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