第27話

「柚季ー? どうかしたの? 宅配ならあたしも手伝うからさ」

「あっ……玲香っ……」

「おやおや」


玄関には柚季と、スーツを着た男の人が2人立っていた

明らかに宅配の業者さんって雰囲気じゃない

とりあえずこのまま放置はできないよね。ひとまず話しかけてみよう


「えっと、どちら様ですか……?」

「あなたが加賀さんの……なるほど」

「どうやらお話は本当の様ですね」


スーツの2人は柚季のことを苗字で呼んだ

この雰囲気、夕方にも感じたな


「柚季?」

「玲香……っ」


あたしは柚季の隣に並び立った。そして柚季は肩を小さくしてあたしの近くに寄った

柚季のこの反応と雰囲気。なんか嫌な予感がする


「私どもは加賀さんをわが社へとお誘いしている者です。先だっては社の別の者がお二方とお会いしたかと存じます」

「はぁ……」


やっぱり、この人たちは柚季を復職へと誘っている会社の人らしい


「何の用ですか? 柚季に用事ですか?」

「本日は加賀さんへの確認に参りました」

「確認、ですか」

「ええ。どうにも我が社への入社をお断りされたとのことで」


柚季、本当に復職の誘いを断っていたんだ

疑っていた訳じゃないけど柚季があたし達を選んでくれた実感がまた出てきて嬉しさが込み上げてくる

でも今は喜んでいる場合じゃなさそう


「それでここまで来たんですか」

「はい。失礼ながらお宅へとお伺いに参りました。今はこちらにお住まいとのことでしたので」


柚季が今あたし達とここで暮らしていることを周りに言いふらしてはいないはず

夕方に会ったスーツの人からこの場所を聞いたんだろうな

にしたってまさかここまで来るなんてね


「加賀さん。なぜお断りされたのですか? 何か理由でもあるのですか?」

「心配なさらなくても前職の者と会うことはありません。良い環境で仕事ができることを約束しますよ?」

「……私は……」

「はい。どうしてですか?」


スーツの2人は靴を履いたまま上がりこむ様な勢いで柚季に詰め寄った

柚季は明らかに怯えている、スーツ、というよりもこういう雰囲気がトラウマになってしまっているのかな

柚季が困っているのなら助けてあげたい

あたしは柚季の彼女として、柚季を守るって決めたんだからっ


「えっとっ……」

「あのっ柚季が困ってるんです、少し落ち着いてもらえませんか?」

「あなたは?」

「あたしは三森玲香です。柚季と一緒に暮らしています。柚季が困っていますのでひとまずはっ」

「玲香……いいの」

「えっでも……」

「うん。私が自分で言いたいから」


柚季はあたしの前に立ってスーツの2人に向かい合った

そして手を組んだまま頭を下げた


「私は、私はっ。玲香と美海と一緒に暮らしたいんです! ごめんなさい!」

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