第15話
「じゃあ次はキスだね」
「キ……キスぅ!?」
「美海!?」
今当たり前のように言ったけどさ! おかしくないっ!?
あーんの次はキスっていきなりハードル上がりすぎだって!
「美海、キスはちょっと急すぎるというか無茶だよ!」
「うんうん! 私もキスは恥ずかしいよぉ!」
「なに言ってるのさ? さっきのあーんで間接キスしたじゃん。そこまで行ったんだからもうキスしちゃいなよ」
「あぁ……!」
そういえばそうだった……!
さっきのはお互い自分が使っていたスプーンであーんしたんだっけ
柚季が高まりまくった恥ずかしさに耐えられなくなってきたのか頭をふらふらさせ始めた
「その、おでことか頬とかにするってのはどうかな……」
「唇ぅ! 唇以外認めないから!」
美海はいつの間にか追加で注文していたクリームソーダをストローでずぞぞーと飲んだ
そしてふんすっと息を吐いて腕を組んだ
美海はあたしたちを本気でいちゃいちゃさせたいんだって今頃になって気付いた
「あのね、柚季。その」
「れ、玲香っ!」
思い切って柚季の方を向くと意外にも柚季から声をかけてきた
「その、玲香はキス……したいの?」
「あたしは……えーっと」
うん。どうしても言葉が詰まっちゃうよ
「イヤ?」
「イヤじゃない! 柚季とキスはイヤじゃないよ! でも……ハズい」
「私も恥ずかしいよ……でも私は……イヤじゃないよ。玲香のことが好きだもん」
「あたしも……柚季のことが好き」
それっきりあたし達はまた黙った
ハズいんだからしょうがないでしょ
「そこまで言っておいてなんでキスしないのさ……」
あたし達の何度目かの告白をクリームソーダをストローでぐるぐるかき混ぜながらあきれ顔の美海さん
いやホントにハズいんだって……他のお客さんもいるんだしさ?
「分かったよ。2人がキスしないなら私がするから」
「え……? っ……!」
「み……み……?」
美海は身を乗り出してあたしの頭を両手でつかんだ
美海の顔が迫ってきて。迫り切った
唇にクリームソーダの香りとやわらかい感触を感じた
あたしホントに、ホントにキスしちゃってる!?
「んっ! はいっ次は柚季ね」
「ちょっと待って美海っ! 私はっ……っ……」
「あ……」
あたしの唇をあっさりと奪った美海はそのまま柚季の顔も奪った
美海……すっごく真剣な顔をしてるよ……
柚季は……何が起こってるのか信じられないって感じ
慌てることすらせずにただ目を見開いて美海と唇を合わせている
「んっ! これで完了だね」
「みっ美海……!」
「どうしたのさ玲香? 柚季も手をわなわなさせちゃって」
「なんでキスしたのさぁ!」
あたしがおかしいのかな……いやあたしの主張は間違ってないはずだよね!?
恋人とキスするのにためらっていたら横から親友があたしと恋人にキスしたってことだよね……うんうんなるほどねー……いやおかしいよ!!
柚季はとうとう限界を迎えたのかぷしゅぅ~っと頭から煙を出してかくんっと首を下に向けてしまった
「なんでって2人がキスしないから私が代わりにしたんだよ? ほらペットと飼い主がキスするってよくある話でしょ?」
「いやそれって人間とペットの話じゃ……」
「私はペットなの! それで玲香と柚季は飼い主っ! 何度言わせるのさぁ! もー本当にしょうがない飼い主だなぁ」
美海は盛大なため息をついてクリームソーダを一気に飲み干した
「まーさすがにキスは早すぎたのかもね。そんじゃそろそろ帰ろうか」
「……えっもう帰るの? 早くない?」
お昼を過ぎてまだ数時間しか経っていない。学生じゃない今であっても帰るなんて選択肢はでてこないと思うんだけど
「まだ全然足りないけど、一応2人のイチャイチャは見られたからね。だから今日はもう終わりにしようよ。でないと柚季が持たないよ」
「まあ確かに、あたしもこれ以上柚季に無理はさせたくないけど」
「2人とも、私のことは気にしなくても良いんだよ? もう平気だから」
「おっ柚季が帰ってきた」
ダウンしていた柚季がなんとか復帰した。まだ顔は少し赤いけど
「柚季、大丈夫?」
「ありがと。大丈夫だよ玲香」
「柚季ー帰って遊んでご飯にしようよっ、柚季がいないとつまらないし晩御飯が悲惨なことになっちゃうからね」
露骨にあたしの方を向く美海
それどころかビシっと指を指してきた
「悪かったなあたしの料理がヘタで……ていうか比較対象が柚季だからそう思っちゃうんだよっ」
あたしだって一応は社会人なんだからご飯くらいは作れるんだよ
ただ相手が悪いんだって……
いつ身に着けたのか知らないけど柚季の料理の腕は主婦並みになってたんだよね
そんな柚季と比べられるとさすがに負ける
ほっほーんと美海がジト目でずいっとあたしの前に顔を近づけてきた
「この前作った玲香の焦げ焦げカレーは忘れてないよ。私か柚季がちゃんと見ていればあの事件は防げたのに」
「あっ……あれはたまたま失敗しちゃっただけだっての!」
「カレーのお鍋の前でずーっと夢中でスマホ弄ってたのはさすがにどうかと思うぜぃ? どうせSNSか動画サイト見てたんでしょ?」
「そ、それはそうだったんだけどね……」
いやね? 最初はちゃんと料理のレシピサイトを見てたんですよ?
それがいつの間にかSNSと動画サイト巡回になっていたんですよ。不思議ですね
「はいはい。私がちゃんと晩御飯作ってあげるから2人ともケンカしないのっ」
「ぶーぶー。柚季も一度ガツンと言ってよぉ。でないと玲香の料理の腕が上がんないんだからさー」
「柚季、今夜は美海の嫌いなメニューにしよう。あたしも手伝うから、というかもう全部あたしが作るよ」
「れ、玲香って人の心がないの……!?」
美海の顔が真っ青になった。手を握ってがくがくと震えている
「美海はあたしの料理の腕が上がってほしいんでしょ? ならあたしがどんどんご飯を作って練習した方が良いよね!」
「うえーどうしよう柚季ぃ……玲香が悪魔になっちゃった……」
「心配しないで美海。私もちゃんと玲香を手伝うから安心して?」
「うぅー、玲香に火を任せたらダメだからね? 絶対だよ?」
「安心しなって美海ぃ~! 美海が沢山おかわりできるくらいあたしがじゃんじゃん作ってあげるからね、早速今からレシピサイト漁りまくるよ、あと初心者向けの料理動画も……あっこの料理面白そうじゃん」
「ひぃぃぃぃ! もういっそのこと今から宅配頼んどこうかな……」
「美海、ちゃんと私と玲香が作ってあげるから宅配はダメです」
「柚季も悪魔になったぁ……」
美海はこれ以上話すと事態が悪化していく一方だと踏んだのかよろよろと立ち上がった
さすがにいじわるしすぎたかな
でも今日は美海に振り回されっぱなしだったしこれくらいはいいよね
あたしと柚季のパフェはもう無くなってるし帰ろうか
……適量って概念はいつまで経っても分かんないけどなんとかなる。なんとかする! あとしんなりと大さじ小さじの意味もよく分からないけどまあ大丈夫でしょっ!
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