第13話
「もー、せっかく玲香がアタックして来たんだから柚季も受け止めなくちゃダメじゃん!」
「だっ、だって……恥ずかしいから……」
「あそこは柚季も玲香と向かい合うのが良かったって! 次はちゃんと玲香と……」
「玲香と?」
「えーっと……イチャイチャしないとだめだよっ!」
「うん……頑張る」
温室を出たあたし達はまた手を繋ぎ合っていた
美海は、最初に手を繋いだときは嫌がっていたけど今度は自分からあたしと柚季の手を握ってきた
バラがたくさん植えられた庭に3人でゆっくりと歩き回る
隣の話し声も気になるけどそれ以上にあたしは心の中で頭を抱えていた
さっきの温室であった無意識での行動だ
「玲香は玲香で何て顔してるのさ。数時間かけて書いたコードが停電で無駄になった時みたいな顔してるよ?」
「なーにその例え……全然分からないよ」
「玲香も一度体験してみると良いよ、軽い絶望を味わえるから」
「そんなの味わいたくないって……はぁ……」
多分エンジニアの話であろう美海のたとえ話を横に置いといて
さっきの温室で、あたしは何も考えずに柚季に近付いた
もしあのままずっと身体を動かしていたら、無意識だったあたしは柚季に何をしていたんだろう
ちらりと美海越しに柚季を横目で見る
柚季は空いている手を胸に当ててうつむいている
顔色が悪い様には見えないから体調が悪いということはなさそう
「2人共しっかりしてよ、デート中なのに何でそんなに落ち込んでるのさ」
「いやーそう言われてもね」
「うん……」
最早何度目か分からない美海の指摘だ
しかしここで戸惑っていてはまた美海が何かやらかしそうな気がする。と言うか今日はそんなのばっかりだよね
流石にそれは避けたい。これ以上美海を暴走させると公衆の面前でペット宣言とかやりそうだ
何かしなきゃ、でも何をすれば良いんだろう……!
「えーっと、何か甘い物食べない?」
「甘い物?」
「ほら、あたしさっきバニラの香りを感じたから何かデザートを食べたくなって来たんだけど……どうかな?」
流石に苦しいかな。というかバニラというワードのせいなのか柚季の頬がさらに赤くなってしまった
温室でのことを掘り返してしまったよね。これは失敗かな……
「そうだねぇ、私も甘いの食べたいな。香りだけじゃなくてちゃんと舌で味わいたいよね」
「そうでしょっ!? 確かこの植物園ってカフェがあるんだよねっ? だから今から行こうよっ」
「良いねーっ……しかし玲香さんや、ちょっと無理やり感が強くないかい? なんとかこの場をしのごうというのがバレバレだぜ?」
ニマニマと笑いながら美海が見上げて来る
「なっ……別にバレバレでもいいでしょっ!? ほら早く行くよ! 柚季もカフェで良いよね?」
「うっうん!」
バラの庭を美海と柚季を引っ張って足早に進む
美海が含み笑いをしながらあたしを見上げているけど無視だ無視っ
柚季と2人で恥ずかしがる空気を吹き飛ばすために強引にカフェに行くことにしちゃったけど……これはあたし達のデートなんだからあたし流で行かせてもらうだけ。だからこれで良いのっ
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