第11話

レストランから電車で数分間移動した所に植物園はある

昔からある植物園なので存在自体は知っていたんだけど実際に行くことはほとんどなかった所だ

なにせあたし達の街にある植物園はゲーセンや映画館があるような繁華街からは離れたところにあるから遊びに行く候補には上がらなかったのだ

立地の大切さを感じる

そんな植物園の園内にあたしと柚季、そして美海の3人はいた


「……で、何さ? これ」

「こうしないと美海は勝手に走り出しちゃうでしょ」

「ごめんね美海、しばらくこうしていよっか?」


植物園に入場した直後

あたしと柚季はそれぞれ美海の手を握っていた

美海の低めの身長も相まって、あたしたちは他人から見るといよいよ仲の良い3姉妹みたいになっているんじゃないかな


「くぅぅぅぅぅぅ……! 私は子供かー! 離せー!」


美海はぶんぶんと両腕を振り回し始めた


「ちょっと美海っ暴れないでよっ腕痛いからっ」

「わわっ美海っ……!」


流石にこれは子ども扱いみたいになってるよね……

だがすまん、許せ美海。君を放置するととんでもないことをやらかしそうで怖いんだ

腕を振りほどこうとする美海だけど、それでもあたしと柚季はしっかりと美海の手を離さないようにしっかりと握る

そんなあたし達3人があまりにも目立っていたのか、近くを通りかかったであろう朗らかなおばさんに話しかけられた


「こんにちは、かわいい妹さんですね」

「えっ……!? 違うよ私は妹じゃなくてペッ……」

「えぇ! 妹……みたいなもんですね! はい!」

「姉妹で仲良しなのは良いことよねぇ。それじゃあね」

「あははっはーいどうもー……ははは……」


おばさんが遠くに行くと、あたしは美海に睨みつけられた


「私はペットなんだぞぉ……なんで玲香は割り込んできたのさ」

「なんでって、赤の他人にこの人はあたしたちのペットなんですー……なんてこと言える訳ないでしょ」

「玲香のいじわるー……しばらくゲームの相手してあげないから」


美海はあたしから目を背けてそっぽを向いた

それでも手を繋がれたままだった

あたしから背けられた顔は必然的に柚季の方に向く


「えっと、美海、お菓子あるけど食べる?」

「……うん、食べる」


美海の両手はあたしと柚季によって繋がれていたので自分で食べることはできない

なので美海は柚季にグミを食べさせてもらう形になった

美海は少しだけ目を輝かせてもぐもぐとグミを食べて、またうつむいてしまった

うーん……ちょっとかわいそうになってきたかも

美海は柚季と一緒に大学時代を過ごした仲間だ

今では生活費の何もかもお世話になっている状態なんだよね。自分でもよく分からないけど

何か美海が元気になる事を言わないと……!


「えーっと、ほらっリードだよリード!」

「リード?」

「ほら、美海はリードが欲しいって言ってたでしょ? これがリードだよ」


美海と繋いだ手を少しだけ挙げる

柚季も美海と繋いだ手を挙げてくれた


「首輪に着けるヒモだけがリードって訳じゃないと思うんだ。だからえーっとその、あたし達にとって手を繋ぐ、それがリードを着けるってことなんだよ!」


こんな話題が元気になる事なのかとすごく不安になる

いやきっとおかしいよね。でも美海はリードを欲しがっていたからこれで喜ぶ……!

……と良いなぁ


「そのっあたしと柚季は美海の飼い主なんだから、ペットをこうやって繋いでおくのは当然だよ!」

「玲香……」


我ながらすっごくヒドイことを言ってしまっている

間違えても人に、それも親友に言うことではないよね……

今すぐにも美海に平謝りして訂正したい欲求が、あたしの中で渦巻いている


「美海、3人で一緒に楽しもうよ? こうやって3人で一緒に遊びに行くのは久しぶりだもんね」

「柚季……」

「私と玲香と美海は一緒。だからこうやってリードを着けようよ。それで元気出して欲しいな」

「リード……そっか! リードだね!」


美海は柚季をあたしの顔を交互に見てぱああっと顔を輝かせた

そしてあたしの手と柚季の手を握る


「それじゃあしょうがないなぁ! 玲香も柚季もしっかり私に着いてきてくれたまえー!」

「あぁちょっといきなり走らないでって!」

「美海っ危ないよっ!」

「温室ってのが面白そうだと思うんだ! だから最初は温室ね!」

「分かったから落ち着いてって美海ぃ!」


ヒドイ言いようだったけど美海が元気になってくれて良かった

あたし達は文字通り美海に引っ張られながら園内を走った

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