第7話

「注文した調理器具がまだ全部届いてないから簡単な物しか作れなかったの。ごめんね」

「これが……簡単?」

「柚季って料理スキル絶対高いでしょ?」


テーブルに座ったあたしと美海、そしてキッチンの主たる柚季

柚季は申し訳なさそうに謝っているけど、このご飯は簡単というカテゴリには入らないと思うんだ

ご飯にお味噌汁。そして目玉焼きと焼き鮭にサラダまでもある。

真っ白なご飯から出ている湯気がなんとも食欲を刺激してくる。

白みそのお味噌汁には豆腐と昆布、それと玉ねぎが入っている

そして目玉焼きと焼き鮭も綺麗に形が整えてある

サラダは千切りのキャベツとキュウリにミニトマトだ


「いただきますっ」

「いただきーますっ!」

「ふふふっゆっくり味わってね?」




柚季の朝ご飯は見た目通りちゃんと美味しい、いや疑ってた訳じゃないけどさ

一口食べるともう止まらないの。あたしも美海も夢中で箸を動かし続けていた

目玉焼き、白米、焼き鮭、サラダ。そして温かいお味噌汁で一旦口をリセット。そしてまた目玉焼き……というループが続く

柚季の優しさなのか鮭の骨はちゃんと抜いてくれていた


「私、こんなに手の込んだ朝ご飯は久しぶりかも」

「そうなの?」

「私もかなー。ずーっとすぐにできる物で済ませてきたし?」

「え……? 玲香も美海もどんな食事をしてきたの……?」


首をかしげる柚季にあたしと美海が顔を合わせる

今まで食べる機会が多かったのはー……


「カップ麺にコンビニ弁当にー、あとたまにスーパーの総菜かな……」

「数秒で食べ終わるゼリーのアレに、ブロック状のアレ、それをスポーツドリンクで流し込む」

「あとハンバーガーにポテト、ホットドッグとか」

「そうなるとコーラは外せないよねっ! 」

「もちろんっ! 休日前の夜に食べるピザとコーラパーティーの良さと言ったらもう最高だよ! やっぱり美海は分かってるね!」

「へっへっへ、私達の付き合いなんだから好みくらい分かって当然だぜぃ!」


グッと拳を付き合うあたしと美海

しかし自分たちで言っておきながらさんざんだなあたし達のご飯……料理のリの字もない

あたし達の今までの食事の内容を知った柚季の顔は青い。わなわなと体を震わせている


「2人共……」

「柚季はどう? 醤油ラーメンとカレーラーメンならどっちが好き?」

「ハンバーガーにはコーラ派? それとも果汁ジュース派?」

「どっちも食べないよっ! 今日から私が2人のご飯を作る! 玲香も美海もちゃんとしたご飯を食べなきゃダメだからっ!」

「いや別にそんなに頑張らなくても」

「手早く済ませるファストフードは最強だし」

「だめです! 2人共もっと良いものを食べるべきだよ! だから2人共そんなに私のご飯を美味しそうに食べてくれてるんだっ!」


柚季は喜びと怒りを同時に混ざった変な表情であたしと美海を責める

柚季がこんなに美味しいご飯をいつも作ってくれるなら、確かにありがたい。でも……


「じゃああたしもご飯を作るのを手伝うよ。いつも柚季に作ってもらってばっかりじゃ悪いし」

「それは嬉しいけど……でもでもっ! たまにで良いよっ? いつもは私が作るから!」

「あー私は食べる専門だかんねー。作るの面倒だもんっ柚季と玲香に任せたっ」

「面倒なの?」


美海は両腕を頭の後ろで組んだ


「んだ。料理もゲームみたいにパパーッと作れたら良いんだけどね。作るのは楽しいんだけど片付けが面倒なのだよ玲香」

「美海は相変わらずだね」


柚季がくすくすと笑う


「柚季のご飯は美味しいよ。でもさ」


美海が付け足す


「私の分のご飯はテキトーでも良かったんだぜ? テーブルとかキッチンのお皿に肉とか魚でもパンでも乗っけて置いてもらえたら勝手につまんで食べるし。私は玲香と柚季のペットなんだからさ。お皿に餌を盛る感覚で手軽にやってくれたらそれで良いんだぜぃ?」


この子は本当にペットとしてふるまう気らしい

自分の分のご飯は雑で良いって言う美海だけど柚季は引き下がらなかった


「そんなのだめ。ご飯はちゃんとみんな揃って食べるの! それに私は美海の分だけ手を抜くなんてしたくないです。私も玲香も美海のお世話になっている身なんだからせめてご飯くらいはちゃんとした物を食べてもらいたいな?」

「でも……」

「あたしだって美海と一緒にご飯食べたいよ。せっかくまた会えてしかも一緒に暮らせるんだからさ。美海と一緒にご飯できないのはさみしいって」


柚季だけじゃなくて美海ともまた会えたのにご飯はバラバラってのは寂しいよ

お世話になる相手だけどそこは曲げたくないな


「いや私はペットだから……」

「諦めなって美海。柚季の顔に絶対にみんなで食べるって書いてあるよ」


柚季はお箸を置いてむぅーっと両手を腰に当てて美海を睨みつけていた

エプロンをつけっぱなしだからかお嫁さんみたい……というかお母さんぽさもあるかな

本人に言ったらどんな反応をするんだろう。ちょっと気になるけど試すのはやめておいた方が良さげだ


「それじゃなんかペットっぽくないけどー……まあしょうがないか」

「じゃあご飯は3人集まって食べるってことで」

「そうだね。美味しいの作るから楽しみにしてね?」


柚季は嬉しそうに美海を見つめた


「ねっ。海苔とふりかけ、どっちが良いかな? 納豆もあるよ」

「ホント、何でこれで簡単な出来なのかな」

「これより上があるってことだよね……」


あたしは美海と一緒に苦笑しながら柚季からふりかけを受け取った

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