第6話
「……あっ! 玲香っ! おはようっ」
「あー惜しいっ後5分で来なかったら玲香の分はあたしの物だったのに」
急いでリビングに出たあたしに柚季と美海が声をかけた
もう既に朝ご飯の準備ができているみたいで良い匂いが漂っていた
美海はもう食べる準備万端って感じでテーブルに座って足をプラプラ揺らしている
柚季はテーブルから少し離れたキッチンにいた
「おはよう。2人共早いね」
「早いっていうか玲香が遅いの!」
「遅いって。あたしはいつもこれくらいの時間なんだけどなぁ」
「ふっふん。修業が足りないぞよ玲香や」
「何の修行だよ?」
「うーん……早起き?」
「あたしに聞かないでよ」
あたしと美海のやりとりを聞きながらキッチンに立っていた柚季が美海に声をかけた
「ごめんね美海、玲香を起こしてくれて」
「良いってことよー! 私も早く3人でご飯食べたかったんだもん」
柚季に向かってサムズアップを送る美海
柚季も美海にならってVサインを送った
「でも美海? ダメだよ玲香のご飯まで食べたら。玲香がかわいそうでしょ?」
「冗談だって。ああでも言わないと玲香ずっとダラダラしてそうだもん」
「そう言われれば確かにそうかも……」
「柚季は玲香を甘やかしすぎたらダメだよ? 彼女としてしっかりしてあげなきゃ」
彼女という言葉に反応したのか、柚季はハッと背筋をピンと伸ばした後両手を胸の前で握ってあたしの方に体を向けた
「玲香っ私がんばるっ! 彼女としてがんばって玲香のことを甘やかしすぎないようにするねっ!」
「本人に言うことじゃないと思うんだ ……おいそこの後方彼氏面。その通りだって言わんばかりにうなずくのやめろ」
「彼氏じゃありませんー私はペットですぅー」
「ふふふっ……今ご飯準備するね?」
ドヤ顔で腕を組んで反論する美海は置いといて
あたしはキッチンから出てきてテーブルに朝ご飯を並べていく柚季に目をやる
柚季の服装は少し見慣れないものだった
「柚季、その恰好」
「あーこれ? えへへっどうかな?」
ちょっと恥ずかしそうに袖をつまんであたしに見せる。柚季はエプロン姿だった
白に少しだけピンクが混ざった色で、肩にはフリルが付いている
家庭向けとしてはちょっぴり派手なフリルだけど、メイドさんみたいでかわいい……
柔らかい柚季の雰囲気にピッタリだ
「玲香にナイショで買ったんだよねー。玲香に見てもらいたいからって家具と一緒にカートに入れたっけ」
「もっもうっ。秘密って言ったのに!」
柚季ってば、あの子あのとんでもない額が表示されていたカートの中にしれっとエプロンを入れていたんだ
柚季のしたたかぶりと、あたしも何か好きなもの買ってもらえば良かったかなと一瞬よこしまな考えが過った
一瞬、一瞬だけだよ? 美海に生活費全部出してもらって家具とかも買ってもらってさらに何かをお願いするなんてさすがに悪いからっ!
「良いじゃん玲香も柚季のエプロン姿に夢中になってるよ? ほら玲香、柚季に感想言ってあげなよ!」
「れっ玲香……」
「えーっと……」
正直少し見とれちゃった
ほんの少しの薄いピンク色とフリルがとてもかわいいっ
こんな子があたしの彼女で良いのかと思ってしまうくらいかわいい
今からでも自分の部屋に戻ってスマホを取ってこようかなって思える
あと恋人にご飯を作ってもらうってすごく嬉しい
恋人にご飯を作ってもらうってすごくグッとくるじゃん?
……まさか相手があたしと同じ女の子でしかも親友の柚季だったとは思わなかったけど
「かわいいね。柚季にピッタリのエプロンじゃない?」
「えっ……もうっ玲香……ありがとう」
恥ずかしそうに木のトレーを胸に抱いてモジモジ揺れる柚季
「ホントに2人は恋人同士なんだねー……というか今の柚季、彼女っていうかまるでお嫁さんみたいじゃん」
「おっおよっ……!? ほっほらっ玲香の髪すごいことになってるよっ! 顔洗っておいで
っ?」
「柚季ってばそんなに恥ずかしがらなくても良いと思うけどなー。まあ玲香の髪が爆発してるのはそうだけどっ」
「えっそんなに?」
「髪がまっすぐ自立しちゃってるよ、待ってスマホ持ってくるから写真撮らせて!」
「待ってそれはやめて!」
あたしは逃げるようにリビングから洗面所に向かった
美海にそんな恥ずかしい写真なんか撮られたら一体何をされるか気になって眠れな……くはないけどっ!
加工されまくるかことあるごとに見せてきて弄られるくらいはありえる
「はぁ……美海ってば隙あらば遊びたがるんだから……うわホントに凄い髪型っ」
あたしは見事に逆立っている髪を温水で鎮める
そして顔にも温水を付ける
目をつぶると瞼の裏にさっき見た柚季の姿が浮かび上がった
「柚季のエプロン姿、かわいかったな」
家庭用にしてはちょっとだけ派手かもしれないフリル付きのエプロンだった
メイドさんが着るようなエプロンドレスって訳じゃないけど、それでも柚季が着るとかなり様になっていた
そしてあたしと美海のために朝から起きてご飯を作ってくれるというのがとても嬉しいよ
美海が色々とお世話してくれるおかげで柚季の心の傷が早く癒えると良いな
いや待て待て、あたしは柚季の彼女なんだからあたしだって頑張らないとっ!
このまま美海に頼りっぱなしという訳にはいかないよ
……まずは仕事探しからだよね。とんでもない収入がある美海と張り合えるには何年かかるんだろう……
「ぷはっ……とりあえず、ご飯食べよう」
ウジウジしても仕方ないよねっ当たって砕けろだ!
仕事を探して柚季に釣り合う彼女になるんだっ
あたしは決意と共に蛇口をキュッと締めて柚季と美海のいるリビングに向かった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます