第5話

ピピピピピピピピピ……


「ふぁ……」


社会人生活ですっかり聴き慣れた、それどころか少しの嫌悪感すら感じるスマホのアラームであたしは目が覚めた

仕事がないから律儀に朝に起きる必要はなかったんだけど、流石に生活リズムを崩すのは社会的にどうかと思って仕事をしていた頃と同じ時間に起きるようにしているんだ

……起きた後ダラダラはすることもあるけどね


「ん……? あー……」


脳に焼きついたスマホのアラームとは違ってあたしは見慣れない天井を目にした

しかもベッドもいつものとは違う

少し混乱したけどすぐに感じていた違和感の正体が分かった


「そっか。もう引っ越したんだったっけ……」


実家の自室や就職してからのアパートよりも広々とした部屋、しかも家具は全部新品だ

あたしは美海が用意したマンションに引っ越したんだった

柚季と一緒にね


「柚季と美海はどうしてるんだろう。もう起きてるのかな。起きてたら……いやまだ寝てるよねきっと」


あたしは、スマホを手に取ってぼんやりホーム画面を見た

生活はいろいろ変わったけどスマホの画面だけはそのままだ

良くも悪くもね

職場の人からの連絡は一切来ていない


「30分くらい適当にスマホ見てから起きよう……どうせ2人共まだ寝てるだろうし」


その時。バァン! とドアが勢いよく開けられた


「グンモーニン玲香ぁー!」

「え?」

「あれー玲香もう起きてんじゃん!」


な、何? 何なのっ?

あたしは大きな音にびっくりしてドアを見ると、そこには満面の笑みを浮かべた美海がいた

そしてベッドで寝転がっているあたしへ向かって走って……いや待って何する気!?


「いやっほー……いっ!」

「うぶっ!! ちょっと美海ぃ!? いきなりなにすんのっ!?」

「へへー玲香はのんびり屋さんだねぃ」


昨日着ていた寝間着からもう部屋着へと着替えていた美海はあたしのベッドに飛び込んできた

掛け布団越しに抱き着かれる

そして 本物の玲香だーっ と掛け布団がかかっていないあたしの胸のあたりに自分の頬をスリスリとこすりつけた後、ガバっと起きてあたしに馬乗りになった


「起きてるなら早くリビングまで来れば良いのにっ! 柚季が待ってたんだよ? 私もだけどねっ! 玲香のネボスケ!」

「ネボスケって……今から起きるつもりだったっての! ていうか柚季も起きてるんだ」

「そうだよ? 玲香はいつ起きるのかなっ ってそわそわしてたよ?」

「そうなんだ……分かった起きる」


美海にはああ言ったけどゴメン柚季。美海が来なかったら少なくとも後30分は待ち続けていたと思う

柚季が待っているのならこれ以上ダラダラはできないかな

早く顔を見せて柚季を安心させてあげたい


「ほら美海どいてよ。上に乗られてたら起きれないって」

「はいよーっと……玲香? スマホ触らずに早く来てよ?」

「分かってるって」


美海はあっさりとあたしのベッドから降りてスタスタと部屋から出て行った

ドアのノブに手をかけたところであたしの方を向いて 早く来ないと私が玲香の分のご飯食べるから! って言い残した


「……柚季が待っているんだ……というかあたしの分のご飯の危機っ!?」


美海ならホントにあたしの分まで食べかねない

お腹に入らなくてもあたしを弄るために無理をしてでも食べそうだよ

学生時代にみんなで旅行した時も勝手にあたしの分のご飯とかお菓子とか食べてたし!

あの時の唐揚げとチョコの恨みはまだ忘れてないぞ美海よ


「急がないと……! 美海ぃー!!」


あたしは掛け布団を一気にめくって、乱れた髪もそのままに部屋の外に出た

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