第3話

あたしと柚季がハモる

美海は完璧なアイデアでしょ? と言わんばかりに胸を張って続けている


「だから私も一緒に住ませてって言ってるの! せっかく親友たちが一緒に暮らしているのに私だけひとりぼっちみたいじゃん、そんなのイヤだもん」

「いやー……恋人同士の部屋なのに他人が入るのはどうなのさ」

「美海、流石にそれはどうかな……?」

「止めても無駄だよ。もう決めたからね。私、桑原美海は親友たちと一緒に暮らします!」


そんなに堂々と宣言されても困るって!

何ふふんってやり切った顔をしてるのさ!?


「ほら、美海だって生活があるでしょ? 今の仕事とか住んでいる所とかっ」

「大丈夫だって私フリーだからネットさえ繋がればそれで仕事はできるのさっ! それに……」


美海はあたしたちにぐいっと顔を近づける


「私結構お金持ってるんだぜぃ?」

「結構ってどれくらいなのさ?」

「えーっとね……億はあるはずだよ」

「ダウト」

「えー! ソッコー否定はひどくない!? 分かったよ証拠持ってくるよ証拠!」


ガタっと立ち上がって店を出ていく美海を見送ったあたしたち

仕事のこととかどこまで本当なのかなと柚季と首を傾け合っているとすぐに美海は戻ってきた


「はいこれ通帳の残高。一応言っておくけどちゃんと私の通帳だからね?」


どうも銀行に行って書類を用意してきたみたい

ぴらっと見せられた通帳の額を見ると見たことのない桁数が刻まれていた

なにこれ。マジで億いってるじゃんか……!


「美海……」

「へっへーん。どう? この私にかかれば部屋やお金の問題なんて簡単に」

「あのぱっぱらぱーの美海がこんなに稼ぐなんて……!」

「……え?」


あたしは立ち上がって両手でテーブルをだんっと叩く


「美海お前どんだけ悪いことしたんだよ!?」

「してないよ!? 信じてよちゃんと私が頑張って稼いだの!」


あたしに続いて美海もテーブルを叩いて食いつく

柚季はがくがくと肩を震わせて両手を胸の前に持ってきている


「み、美海……悪いことは良くないと思うの」

「柚季まで!? マジで凹むんだけど!?」


美海はがっくーんとテーブルにつっぷした

どうしよう、しばらく会わない内に親友が良くないことに手を出したかもしれない……!

柚季と一緒に肩を抱いてブルブル震える


「柚季。なんとかあたしたちでダークサイドに堕ちた美海を救おうね!」

「そだね! 美海のためだもんね……!」

「2人ともずいぶん言ってくれるじゃないか……!」


美海はカバンに手を突っ込むとノートパソコンを取り出した


「そんなに疑うなら見せてあげよう……ほらこのアプリ。私が作ったんだよ?」


ドヤ顔で画面に広がる英語の文章を見せる美海

すごい……何の文章なのかさっぱり分からん!

柚季も、混乱しているのか今にも頭をフラフラしそうだ


「美海、これって」

「分かったよ。ほら最近流行ってるこのスマホアプリあるでしょ? あとこれとこれも、あとこのアプリも」

「うん。それがどうしたの?」

「これ全部私が作ったの。ほら、クレジットに私の名前が書いてあるでしょ?」


これが私のポートフォリオだっ! と自信満々に画面を指で指す美海

言われてみると確かにクレジット画面にMimi Kuwaharaって書いてある

あたしも柚季も、みんなが知っているアプリなのになんで今まで気付かなかったんだろう……


「って言うことは……!」

「そうだよ、今はフリーのプログラマーやってるんだ。こんな感じのプログラムを作って生活しているんだぜぃ?」

「でも美海。大学の頃はプログラムなんて全然やってなかったよね……?」

「そうだよ。柚季もあたしも美海がそんなのやってるなんて知らなかったよ」

「それこそ色々あったんだよ。それで……!」


今度こそ、と美海がドヤ顔でにっこりと笑う


「これで私がお金を持っていることが証明された訳だねぃ。2人の面倒だって見れちゃうよ?」


全然実感が湧かないけど美海がものすっごくお金を持っているのは分かった

でもまだ問題はある


「ほら、あたしたち恋人だからさ? 2人で暮らす中にさらに親友が一緒に暮らすのはどうかなって思う訳で」

「そうだね……じゃあ私はペットとして暮らせばいいんだよ!」 

「滅茶苦茶言ってるなコイツ!?」

「ペ、ペットって……!」


これ以上のアイデアはないでしょ! と勝ち誇った顔をしているけどいいのか!?

コイツあっさりペットになる気だぞ!?

あたしと柚季はどうしようかとわなわなしていると美海はいつの間にか飲み終えた飲み物をテーブルの隅に置いて立ち上がった


「部屋は私がスッゴイのを用意してあげる。生活費も必要なものも全部私が出してあげる。そして私は2人が飼っているペットになる。これで万事解決だねっさあ不動産屋へレッツゴー!」

「美海ぃぃぃ話を聞けよぉー!」

「美海、ちょっと落ち着こう!?」


美海は伝票を手にあっという間にレジに行って、あたしたちの分も含めて会計を済ませた

あたしは美海から捕まれた手を強引に解こうとしたけど、嬉しそうな美海の顔を見ているとそんな気は徐々に薄れていった

美海の言ってることは明らかにおかしいけど、せっかく再会できた親友と繋いだ手を解きたくはなかった

多分、柚季も同じことを思っていたと思う

この子のカフェに入ったときの落ち込んだ様子はすっかり消えていたんだ

その様子を見て、あたしは更に美海の手を解く気が薄れた

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