第87話 この物語は妄想という甘いお菓子でできている
前回の話から二週間後……。
「ケセラちゃん、約束通り死亡届を持って来ましたわよ」
「……自分は離婚届」
「私は離党届を持って来ました」
リンカ、ジーラ、ミクルの順にケセラが渡した契約書を見せながら、意味深な言葉を口にする。
「もうお三人さん、どこから突っ込んでいいか分からんわ」
自分のサインではなく、書類に書いてる別次元な項目に頭を悩ませながらも、ケセラは一人ずつ詳しく話を聞くことにした。
「まずはリンカ。こんなところで命を散らしても困るで」
「仕事を辞める=魂が抜けたも同然の意味でして」
「普通に辞めれんのか」
「普通に辞めるだと確実にそういう方向性になってしまいますわ」
「つまりこの仕事を続けるんやな?」
「はい。馬車馬のようにこきつかって下さいな」
いや、それだとパワハラで自身も危うくなると説明したくなるケセラ。
「次にジーラ。離婚も何もあんたは独身やろ」
「……仕事を辞めるということは推しのグッズが買えなくなる。これは推しのキャラとの別れを意味する」
「ああ、ヲタクあるあるね」
「……もう彼女の応援ができなくなると思うとつらみ」
「だったら残ればいいやん?」
「……もっと楽して稼げる仕事の方がいい」
「はあ、最近の若者は現金やな」
金の切れ目は縁の切れ目とも言うのか、ジーラニート兵は初めから仕事を辞める気満々である。
「最後にミクル。離党って、どこの政党にも入ってないやろ?」
「甘いですね。私は自由民○党のポスターを配って回ったこともあるんですよ」
「ただのチラシ配りやないか」
「選挙当日は特に忙しくてですね、一日かけてお気に入りの選挙カーの後をつけ回したり」
「立派なストーキング行為やないか‼」
「そんなわけで警察から事情聴衆を受けて、こういう結果になったのです」
ミクルもここを辞める以前にとんでもないことするなと、ケセラは困り顔で大きくため息をつく。
「あんたらな、三人揃ってお馬鹿トリオやな」
「しゃーないな。ウチが何とか上司に掛け合ってみるわ」
「「「ケセラさん、あざーす‼」」」
「運動部の反応はええから」
──こうして四人はタクシーのドライバーを続行することになったが、思った以上に世間の風当たりは強く、不景気により、会社自体が倒産。
ケセラたち四人組は問答無用でタクシーの職を失った……。
いきなり職無しになり、路頭をさ迷う四人組。
まさに生きるゾンビのような目つきで就活を始めたのだった。
──やがて、新しい職を探すため、一人の女の子が一台のタクシーに乗っていく場面へと舞台は移る……。
「こんにちは。お客さん、どちらまで?」
「最寄りの駅前までお願いできますか」
「分かりました。今日は天気も良いし、どこかにお出かけかい?」
「いえ、今日から電車の車掌の仕事がありますので」
「そうかい。お仕事頑張ってね」
「はい!」
女の子は電車の初仕事に期待で胸を膨らませる中、現場で落ち合う三人のことを気にかけていた。
「ケセラさん、ジーラさん、リンカさん。久しぶりの出会いになりますが、元気でしょうか?」
彼女の名前は高校生を卒業し、新社会人となったミクル。
後に電車の車掌となり、この物語の歴史を綴る女性でもある……。
この妄想の物語に終わりはない──。
──てなわけで地の文はみんなのアイドル、イケてるタツノがお送りしました。
みんな、また会えたらここで会おうぜ‼
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