第52話 学校の怪談

「もう嫌です。どうしてこんな警備をしないといけないのですか?」

「それが警備員としての定めやからや」


 ミクルたちの今日の警備は夜の学校だった。

 いつもは学生で賑やかなこの場所も深夜になれば、魔の巣窟となる。

 先ほどから不気味なカラスの鳴き声が、怖いものが苦手なミクルの心に更なる恐怖を滲ませていた。


「ミクルちゃん、柄にもなく怖いのですか? 笑えてきますわね」

「……そう言うリンカはひざが笑ってる」

「これはただの痙攣ですわ‼」


 ミクルに負けずにひざどころか、関節がおかしな角度にて、震えている……いや、ひきつったように身を震わすリンカ。


『ギャアギャア!』

「きゃあーっ!?」


 いきなりのカラスの鳴き声に驚き、とんでもない声を出すリンカ。

 その叫び声は校舎を越え、打ち上げ花火の如く、天空まで届いたに違いない。


「……リンカ、一丁前に声だけはデカイ」

「それだけ誇らしい女の子というわけですわー!!」

「誇るどころか、顔面蒼白やで」

「リンカさん、あまり無理はしないで下さい」


 三人ともリンカの怯えている姿に心配になってくる。

 これまで四人揃って、くぐり抜けた修羅の道なんだ。

 迂闊にその道から外すわけにはいかない。


 肝試しに見えても、これはれっきとした仕事なのだ。

 四人としてのお金が絡んでる以上、ここで一人だけ抜けてリタイアされるのも困る。

 例え、一人分でも貴重な賃金を無くすわけにはいかないのだ。


「リンカは無理なんてしてませんわ。少し驚いただけで」

「それが無茶ということやけん」


 リンカの強がりを見抜き、注意を促すケセラ。

 普段のように取り繕っても、ケセラにはお見通しだった。


「どうぞ、粗茶ですけど」

「入らんわ!」

「えっ、砂糖とミルクも入れますか?」

「さりげなく麦茶でカフェオレ宣言止めてや」


 ミクルがお盆にのせた湯飲みを運んできて、なんちゃって麦茶オレの話をしたがろうとする。

 実際飲んでみたら、あまーいカフェオレになるのは驚きだが……。

 味覚の感覚も、ほぼカフェオレと同じということにも……。


「そんなことより怖いんやなかったん?」

「はい、お陰様で。慣れというものは末恐ろしいですよね」


 お盆に据えておいたお茶菓子を食べながら、元気のいい素振りを見せるミクル。

 これは冗談抜きで、ミクルは本気でお茶菓子を食べてるということになる。


 人間、他の動物と同じく腹減りには勝てない。

 お盆の横にあるのは牛乳割り。


「どういうメンタルしてるんだか……」

「ミクルちゃんは鋼で出来てるのでしょうか?」

「……鍋?」

「二人とも、それ人間業やないで……」


 まるでミクルが人間じゃないという差別的要素に、ケセラの頭の整理が追い付かない。


「大昔の警備員は鋼の防護服を着込んでおり……」

「それやと重くて動けんから宇宙でやってや」

「……未来予想図」

「するか‼」


 ジーラがドリカンの鼻唄を歌いながらグラウンドへと出て、今日も月が綺麗ですねと意味深な言葉を振りまく。

 いや、太陽が真上から照りつけているのにその表現はおかしいだろう。


 それともジーラには、それが月に見えるのか。

 学校の怪談みたく、何かにとりつかれたジーラを止めるすべは、今の彼女らにはなかった……。



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