第53話 危ない屋敷

「資産家のお嬢様の家を警備しなさいと言われましても……」

「分かるで。リンカの家は執事が何もかもやってるもんな」


 お嬢様の育ちのリンカは自分で料理をするどころか、身の周りのこともできない駄目っぷりで、ホウキの正しい使い方すらも知らない困ったちゃんである。


「戸籍も名前すらも怪しい赤の他人に任せるなんてどうかしていますわ」

「いや、戸籍が怪しいだけで普通アウトやから」


 戸籍の偽造は思いっきり犯罪であり、いくらお嬢様の身分でも、お縄になることは間違いない。


「不採用通知のメールが山ほどきますね!」

「LINA感覚で物事言うの止めてや」


 ミクルが鋭い切り口で攻めてくるが、そもそも、そんなに通知が来たら、LINAを見るだけでも嫌気がさす。

 もののけの登場に鈴の音がチリンと鳴る感覚だ。


「……ふむ、確かにおかしな屋敷だ」

「ジーラ、さっきから玄関先で何してん?」

「……華やかにするための飾り付け」


 ジーラがパーティー気分で折り鶴を玄関の周囲に飾ってるが、基本、折り鶴は入院中の患者の病気が癒えるようにと励ましを込めて折るアイテムだし、いちいち折るのにも時間がかかる。

 パーティーの飾り付けには非常に効率が悪く、鶴だけに残念な生き物だ。


「推しがない家なんてつまらないものでも、何でもない」

「何でもないと思う時点で止めてや」


 ジーラが折り鶴に加え、アニメ柄の缶バッチまで飾りを付けようとするのをケセラはすんでのところで止める。

 アニメ作品に馴染みがない人にはマニアなおもてなしにしか映らない。


「ケセラさん、大変です!」

「今度はミクルか。一体何やね?」

「玄関がオートロックになっていて、中に入れません!?」


 オートミールどころか、ロックが掛かっていれば調理するのも困難を極める。

 こんな時に役立つのがカセットコンロと言いたいが、そうなればこの場はキャンプの話題でである。

 別にが食べたくて、さらに細かく4等分するわけではない。


「当たり前や。ここは他所よそ様の家やで」

「いえいえ、ケセラさん。ご令嬢の夕ご飯を覗きに行くのはテレビ番組として必要なことであり……」

「……まさしく、三ツ星レストランの宝石箱や」

「あんなあ、ここは普通の民家なんやが?」


 味の元、非行丸の隣の夕ご飯みたいな番組の流れになりそうなのをツッコミで防ぐケセラ。

 落ちこぼれから、非行に走った少女が好むものはラムネ味の煙草モドキ(食用)である。


「ケセラさん、裏庭の勝手口から入れるようです」

「お主はどこのしのびのもんやね」

「失礼ですね。ミクルちゃんは忍者の里でも有名な手裏剣の使い手ですわよ」

「いや、リンカ、あっこは里じゃなく、アトラクションやからね」


 クノイチになりきり、手裏剣投げやボス猿見つけ隊などを楽しむ、忍者のイベント会場も今では寂れたものである。

 いや、猿探しは別のアトラクションか。


「……ハックション!」

「その下りもいらんから」


 ジーラのくしゃみがネタに変わろうとするのをギリギリで食い止めたケセラは思った。

 その下りに反したツッコミで返すのもキリがないと……。


 四人の狂った警備の職務は終わらない──。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る