第37話 半端無いデミのハードル
「お姉さん、デミハの追加注文いいかな?」
「はあ? デミハですか?」
小綺麗な女性のお客さんによる不可思議なオーダーに固まるミクル。
ここの看板メニューかと表の看板をひっくり返しても、何のメモ書きもない。
かと言って、メニュー表の日替わりメニューを覗いてみても、唐揚げ定食であり、デミハという関連性も薄い。
「ジーラさん、少し真面目な話になりますが、デミハってご存知ですか?」
お客さんに問い返すのも失礼なのか、ミクルは厨房で、リンカの茹でた卵の殻を剥いていたジーラに尋ねる。
「……永久歯の例えかも」
ジーラの言葉が的を射たのか、ミクルの中でベストアンサーが浮かび、その場で跳び跳ねてみせる。
運動不足のせいか、多少、息を切らしていたが……。
「それ、出っ歯じゃね?」
「……そうとも言う」
ケセラの正当な解答にジーラが感嘆の息を漏らす。
まるで初めから、そこにあったように。
「あんなあ、こんなファミレスで入れ歯の手入れとかないやろ?」
「今なら、入れ歯の接着剤も付いてきますよ」
「いや、どんなオプションよ?」
ポリグローブじゃないか知らないが、健康な歯茎にそんなの塗ったら、細かい物さえも食べれないだろう。
接着された者は、ストレスがたまったもんじゃない。
「じゃあ、私がお客さんに話してきます。入れ歯の洗浄剤も付いてくると」
「ちょい待ち! さりげなくオプションを追加するなや‼」
ミクルがシュワシュワの元を掃除用具入れから引っ張り出し、水の注がれたグラスを用意するが、別に炭酸水でもないし、何の科学実験かも不明である。
なぜ掃除用具入れの中に混じっていたのかも、謎である。
「えっ、年に一度の大セールですよ?」
「そんなん好んで買うのは、おじいちゃんだけや」
ヨボヨボで杖をついたおじいちゃんが、歯の無い口をしょぼしょぼさせて言うのだろう。
歯で噛めなくても、梅干しは酸っぱいと。
「それでデミハのことは分かったのかしら?」
「不確定要素が増えただけや」
「……くっ、一生の不覚」
「己はどこの
ジーラが手裏剣の形の茹でた人参を出来立てのハンバーグにのせて大いに威張る。
リンカが作ったデミグラスハンバーグ、それが正解じゃね?
「それなら私がお客さんに話してきた方がいいですね。忍び足での提供でいいかと」
「おい、この店はいつから忍者喫茶になった?」
ここはメイドの制服をちらつかすちょっと色気のある喫茶であり、クナイを持って食事マナーがなってない、不届き者を成敗する危ないところでもない。
「……忍法隠れ身の水」
「そんな水入らんわ」
ジーラが水の入ったグラスをカウンターに並べ、新商品の飲み物として売りに出す。
それをミクルは子供心のように、歓喜の瞳で眺めていた。
「なるほど。デミハとはミーハーな飲料水のことですか」
「そんなわけないやろ‼」
だから、デミハの答えはカウンターに無言で置かれた目の前にある。
そう呟いても自分の身は地の文であり、一部を除いたミクルたちの心には届かなかったが……。
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