第35話 オーダー願います

「オーダー入ります。三次元豚の角煮丼一つ、ネギとたまごの自然風チャーハン一つ、サンキューベリベリーストロベリーパフェ二つ入ります!」

「……おっしゃ、任せとけ!」


 ミクルのオーダーが厨房に入り、せっせと動き始めない厨房にいるジーラ。


「……味付けもパーフェクトにこなすリンカの出番」


 ジーラは料理の救世主を求めて、精一杯、か細い言葉を振り絞った。


「いや、よく状況を見てみいや。あんたが作るんやで?」

「……しょえええー!?」

「腰を抜かすな」


 キッチンにて、一人でしゃがみ込み、白目を剥いたジーラに対し、ケセラが抜けかけたジーラの魂を口寄せの術のように呼び寄せる。 

 今、この時間帯、ジーラが戦意喪失になったら、料理を作れる者がいなくなるからだ。


「私もジーラさんの真似してもいいですか?」

「ひょえええー!?」


 ミクルも半目になりながら、その場にしゃがみ、何やらリラックスしている。


 そう言って、立ち仕事に疲れて、さりげなく休む作戦なのだろうか。 

 あの純情だったミクルも小悪魔に染まりつつある。


「ミクルはフロア担当やろ?」

「だってこの15時の時間、暇なんですよ? することなんて店内の掃除くらいで」

「それでええんや」


 ミクル本人は気づいてないかもだが、彼女は充分過ぎるほどに仕事に精を出している。


「それに比べて、こっちのジーラは」


 厨房の方で何やら騒いでる二人組、ジーラと幽霊のように登場したリンカに意識を向けるケセラ。


「……リンカ、自然風なチャーハンを炒める時、無駄に雑念をこめない方がいいか?」

「お気になさらず、普通に作っていいですわよ」


 ジーラはえらく動揺しながら、フライパンを握ってるが、それは玉子焼き専用である。


「……三次元の豚を狩りに異世界に行きたいんだけど?」

「それはブランド名で、元から三次元ですわ」


 そんなジーラの慌てぶりにも、パニクらず、丁寧に現実の豚の存在を教えるリンカ。


「……ベリベリストロベリーのイチゴのお辞儀の傾き加減は?」

「ノーセンキュー、ジーラのご判断にお任せしますわ」


 いつから、ここはファミレスではなく、こだわりの洋菓子店になったのだろうか?


「ジーラ、料理長から調理マニュアル貰ったやろ? そんな初歩的なことをリンカに尋ねんでも?」

「……いえ、聞かぬは一生の恥だから」


 ジーラが中華鍋と対話しながら、味噌汁のような具材(油揚げ、いりこ、長ねぎなど)と水とき片栗粉を入れようとするのを、すんでのところで止める。

 一体、何の創作料理を作る気なのか?


「おい、ちょっとは自分の頭で判断しろやー!」

「……自分、ポンコツだから」


 ジーラがデレデレしながら、カメラに向かってピースサインをするが、そこにはカメラはなく、ただのフリである。

 そこは、ご理解いただけただろうか?


「ジーラさん、私も好きですよ。濃厚スープ」

「それはトンコツやろー!」


 ケセラは、キレのいいツッコミをしながら思った。

 こうなったら、ミクルも同じキッチン担当をやらせようかと。


 ──だが、その思いは数秒で消え失せる。

 ミクルも料理技術がド下手で、同じ目玉焼きでも、キミ……いや、黄身が大爆発した目玉焼きしか作れないからだ。


 もういっそのこと、会社丸投げして、異世界ファミレスに模様替えしようかと、真剣に悩む店長代理のケセラだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る