第27話 閉め切り前の楽しみ

「……原稿が締め切りに間に合わない」

「何か嫌な予感がするんやけど?」


 ケセラは不安になりながらも緊張の面持ちでジーラ漫画家の言葉を待った。


「……こうなったら、今日は徹夜で原稿を仕上げるしかない」

「やっぱりそう来たか」


 ダーツの矢のように予感が的中し、ケセラが死んだような魚の目で手元の原稿に向き合う。


 今日も会社という名ばかりの作業場での寝泊まり。

 かれこれ、もう三日前からこの調子である。


 ああ、パイプ椅子を三~四台横に並べたゴツゴツの椅子寝じゃなくて、家でのフカフカとした寝心地のいいお布団で寝たいと、ケセラは涙ながらに、本日何枚目か覚えてない原稿作業に取りかかる。


「ケセラちゃん、そんなにガッカリしないで下さいな。友達との楽しいお泊まり会と思えばいいのですわ」


 リンカが目をキラキラさせながら、興奮して一人枕投げを始めた。

 主催者、参加者及び、エンディングのクレジット表記もリンカのみである。


 これが例に言う深夜テンションというものだろうか。

 もう勝手に騒いで好きにした後、我に返って大人しく作業に没頭してくれ。


「いや、仕事せいや」


 何度も説明するが、ケセラは真面目な性格で仕事をきっちりとしないと気が済まない常識人でもあった。

 他のお三人さんが『ウキウキー』なお猿なだけである。


「リンカ的には寝袋を有効活用できて、嬉しい限りですわー♪」


 リンカが自身のデスクの引き出しからご自慢の高級そうな寝袋を出して、どや顔で決めて見せる。

 これを着たまま移動も出来るとか実演を始めたが、今の季節が夏だけに暑くないだろうか?


「いや、寝る気満々やろ?」


 ケセラはリンカの真意を悟るとリンカは困ったような顔で『最近、ちゃんと眠れてますか? ご飯は三食きちんと食べてます?』と心理カウンセリングを始めるが、内容がううん臭いので、そのリンカカウンセラーの頭にピコピコハンマーをお見舞いしたケセラ。


「ケセラさん、この世の中には睡眠学習というものもあってですね」

「だから寝るなや‼」


 睡眠学習というものは寝ている最中に勉強内容を覚えるという方法だが、自分自身が見た夢さえも、起きたら数分で忘れてしまうという人間の悲しいさがに気づいていない。


 睡眠中は脳の情報整理と肉体の修復で手一杯なので、寝ながら覚えるという器用な動作はできない。


「……寝る子は育つ」

「怖いから、白目剥いて言うの止めようや」


 無論、ジーラ漫画家も三日くらい、ろくに眠らずにイラストを書き続けている。

 いつ気絶してもおかしくない半分白目な表情で作品を綴っていた。


 その動きは人間のものとは思えなく、まるで感情のないロボットが作業してるように見えなくもなかった……。

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