第26話 ベタなパターン
「……じゃあ、リンカ。ここの髪の毛をベタ塗りで頼む」
「任されましたわ」
ジーラ漫画家の依頼により、指示されたイラストの部分を塗りつぶす作業に入るリンカ。
文字通り、ベタ塗りとは指定された場所を黒インクでベタベタと塗りつぶすことであり、主にキャラの髪の色や影などをつけるために使うテクである。
「おい、ちょい待ち」
そこでケセラが二人の黒取引を止めに入った。
王道漫画でよくありそうなベタなパターンである。
「そんなに難しい箇所でもないし、リンカに頼まんでもええやろ?」
ケセラは、またもや見抜いていた。
ジーラ漫画家が面倒な作業を押し付けていることに。
「……実に彼女はいい仕事をしてくれる」
「それは光栄ですわー」
ジーラ漫画家が、リンカの優秀ぶりを褒めている。
まるで褒められて伸びる子供のように。
「えへへ、照れますね」
「ミクルはお菓子を食べてるだけやろ?」
ミクルがポテチの袋をまさぐりながら、パリパリと餌を咀嚼してる所を見ると、彼女にも巨人になれる資格があると思う。
「……いや、リアルな菓子袋はイラストに映えるから実にありがたい」
「あとリンカたちも食べれますし」
みんなで分けっこして仲良くお菓子を食べる。
何てハートフルな日常なのだろうか。
「食べる映えるの話やないで。ウチらの仕事は漫画を仕上げることなんやで」
仕事に対して厳しい態度なケセラは、どんな時にも真面目で曲がったことが嫌いだった。
彼女の言うことは絶対であり、任務を遂行できない者は、すぐにこの場から撤退させられていたほどだ。
道理で、この職場には顔馴染みのある四人しかいないわけだ。
「……だからベタ塗りを頼んでる?」
「ジーラ先生、道場破りのようにたのもーじゃなか。どうやら先生は置かれた状況を何も飲み込んでないみたいやな」
今日のケセラは、やたらとジーラ漫画家に食ってかかる。
たまたま虫の居どころが悪いのか、腹の虫が鳴いて怒ってるのか?
腹が減っても、物の扱いが雑に見えても、乙女心は複雑である。
「飲み物もありますよ。この際ですから、ここで休憩しませんか?」
ミクルが持参したクーラーボックスを開けると中には大量の飲み物が入っていた。
缶に瓶にペットボトルと十種類以上。
もう屋台が開けるくらいの量だ。
「リンカ、赤ワインが飲みたいですわ」
「はい、百パーセントブドウジュースですよ」
「ありがとうですわ」
ミクルがワインモドキのペットボトルをリンカにあげると、リンカは嬉しそうにそれを振っている。
誠に残念だけど、その中身には炭酸が含まれているが……。
「ケセラさんも先生もどうですか?」
「それじゃあ、一杯貰おうか」
ジーラ漫画家がお言葉に甘えて、リンゴジュースを貰い、一口クチにした途端、安らかな顔つきをした。
「おい、ベタ塗りはどうした!?」
原稿の閉め切り前は開き直った方が得策なのか?
いや、四人に待っているのは閉め切りという、漫画家ってこわーいな法則のみである……。
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