第6話 賞味期限切れの切符
「あれれ、おかしいわねえ?」
一人のおばあちゃんが改札口を通り過ぎようとしても閉じられたゲートによって、通せんぼされる。
この改札口は工事中ではない。
どうやら、おばあちゃんは改札口に入れ込んだ切符を間違えているようだ。
それをいち早く知ったミクル駅員はおばあちゃんの元へと駆け寄った。
「すみません、ちょっと切符を拝見してもよろしいですか?」
「ええ、どうぞ。可愛らしい駅員さん」
「えへへ。可愛いだなんて照れますね」
ミクル店員が照れくさい顔をしておばあちゃんの持った切符を確認する。
ズバリ、確認黙示録。
「あのおばあちゃん、これ期限切れですね」
「えっ、一週間くらい持つんじゃないの?」
「残念ながら賞味期限ではなく、食材でもありませんから」
ミクル駅員が期限切れの切符をおばあちゃんの手にそっと握らせる。
すると、おばあちゃんが何かに気づいたようにロングスカートのポケットを探り出した。
「ああ、ごめんよ。間違えたわ。これは孫がプレゼントしてくれたものでね」
おばあちゃんが別に取り出したカラフルなカードには、人様が端正込めて育てた畑の人参をかじった野ウサギのイラストが描かれており、『我を召喚したいなら、人参のグラッセを富士山の高さほど用意しろ』という御大層な面構えだ。
ご老体なウサギには、生の人参は固くて噛みにくいし、物足りない味付けも嫌だと。
じゃあ、グルメウサギよ、そのかじってる甘い味付けの人参は何なのだ?
「これは図書カードやな」
友人と駅で待ち合わせしていたケセラがそのカードを見つめてポツリと呟く。
こんなところにひょっこりと出現して、友人との待ち合わせはいいのだろうか。
「なら、このカードで一発逆転を狙えそうですわ」
リンカ駅員がトランプのカードを切りながら準備満タンな表情をする。
そのカードの中に混ぜても一発で分かると思うのだが?
「……嬢ちゃんよ、そのカードで『ブラックジャッキーによろしく!』を買おう」
ジーラ駅員が『買ったら是非読ませてくれ』的な爽やかでニヤニヤとしたキモい笑顔を向ける。
ただし、最近は紙の本の価格も値上げしており、千円という図書カードの利用額の都合で買えるのは、はじまりの一巻のみである。
だからと言って、いきなり最終巻のみを購入して、その後の物語を読んでも、頭の中で混乱するだけである。
無事に手術を終え、体の中に置き忘れたディス、イズ、ア、メスのように……。
「……アチョー!」
ジーラ駅員がジャッキーチュンのように、若鳥の味を秘めたせいけん突きの構えで前へ前へと進んでいく。
確かに若鳥の唐揚げは美味しいが、構内でそんなことをされても通行人の邪魔になるだけであった……。
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