第5話 改札愚痴

「ねえ、お姉ちゃん!」


 小学生の女の子が改札口に備え付けた休憩室にいるジーラ駅員に声をかける。


「お姉ちゃんってば‼」


 受け身をとる暇もなく、連続二回攻撃。

 幼いようで相手は中々の強者つわものである。


「……自分は今、猛烈に忙しい」


 ジーラ駅員は血走った瞳で昨日買ったばかりの少年漫画を読み漁っていた。 

 まあ、一言一句の吹き出しを暗記して仲間たちに我が物顔で説明したい気持ちも分かる。


 いくら休憩中と言えど、彼女にとって、ただ通過を見届ける改札口の仕事ほど苦手なものはない。


 この仕事は起承転結のオチがない平凡な職務。

 あくまでも今は休憩中だが……。


「あたし、秋葉原に行ける方法が分からないの」

「……ここが秋葉原駅。アーユーオッケー?」


 ジーラ駅員が大きくはあぁーと溜め息をついて、女の子に説明する。

 今流行りな異世界転生の漫画を読んでいるせいか、英語混じりな返答となるが、転生さえもしてない女の子が不思議そうにしても何の疑問も抱かない。


「フロオケじゃないよ。ここから外に出れないの」


 女の子がその場にしゃがみこんで、涙目でジーラ駅員の姿をじっと見つめる。

 その様子だと、どうやら親とはぐれたらしく、ここに来たのは初めてらしい。


 親御さんはこの電気街でパソコンのパーツを買う前にお子さんという大切なチェックを怠った。

 今頃、心配になってこの子を捜しているだろう。


「ジーラ、渋ってないで出口まで案内をしますわよ」

「そうですよ。困ってる子を放っておけないでしょ? それに迷子みたいですし」


 リンカとミクルによる新米駅員がベテランなジーラ石像をその場から動かそうとする。 

 しかし、ジーラ駅員は石像らしく存在し、貴重な休憩時間を堪能したく、一歩も動こうとしない。

 いや、まだパイプ椅子に悠然と座ったままだ……。


「……じゃあ、お前らが行け」


 ジーラ総督は二人の見習いに命令を下す。 

 すでに駅員の仕事を放棄のようだ。


「何を言っとる! この駅を知り尽くした駅員のお前が行かんとどうすんや!!」


 偶然にも改札口を通り抜けた通行人のケセラがナニワハリセンでジーラ駅員の頭をぶっ叩く。

 偶然にも出来すぎていたが、改札口に隣接した休憩室のせいか、窓は開けっぱなしであった。


「ぎゃふーん!?」

「のびてる場合じゃないで?」


 ケセラがハリセンで魂が飛びそうなジーラ駅員だった意識を何とか繋ぎ止める。

 相手が知り合いだけに手加減したツッコミだったようだ。


「……この鬼畜め」


 ジーラ駅員がゆらりと立ち上がり、ご丁寧に漫画本を透明なブックカバーに収納する。 

 それだとブックカバーの意味がないような?


「アンタ、一応駅員やろ?」

「……フッ、この装束は仮の姿である」

「漫画の読みすぎや‼」


 ジーラは駅員になっても趣味が優先であった。

 これでは、ある意味鉄道ヲタクと一緒である。


 ニンニン。

 この駅員ダメダメなので、応援要請を頼む。

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