第4話 ご理解と非協力
『──荷物をお持ちのお客様は手元に持つか、棚の上に置いていただき、少しでも乗客が座れるよう、ご理解とご協力をお願いします』
朝の涼しげな車内にミクル駅員のアナウンスが今日も電車内に伝わっていく。
その優しさは本心か、マニュアルか、天然の養殖者なのか。
「だあー、だからどうするんよ。この荷物の山は?」
「……ケセラが調子に乗ったから買い過ぎた」
「過ぎたるは及ばざるが如しですわ」
ケセラが大きな白いゴミ袋を二つ持ったまま途方に暮れている。
暮れるどころか、まだお日様は元気よく顔を出したのにだ。
「そんで? ウチがどういう購買意欲を示したと?」
ケセラが大きな袋を下ろすと少しだけ車内が揺れた……何ていう重さではないが、持ち運んで邪魔になる物の山であることは確かだ。
「まあ、二人とも落ち着いて下さい。リンカなんて、お目当てのキャラがようやく出たので何とも」
「そのリンカのダブったキャラも含まれとんやけど?」
「まあ、世の中はそう簡単にうまくはいかないものですわ」
非常に満足げなリンカが含み笑いをし、クリーム色のトートバッグに付けた犬のキーホルダーの感触を指先で確かめながら、ケセラを説得にかかる。
袋の中身はそんなグッズが詰まりに詰まっており、その大半の原因を作った張本人がだ。
「だったら、この荷物を棚に上げるの手伝ってや」
「……ううっ、連日のハードワークで腕に力が入らない」
ジーラが携帯ゲームをプレイしながら腱鞘炎を語り出した。
別腹ならぬ、ゲームで使う筋肉は別物なのか?
「ケセラちゃんは棚卸しという言葉を知りませんの?」
リンカが大きく胸を張ってバッグからそろばんを取り出した。
このデジタルなご時世にアナログの計算器とは中々、
「……ふぬぬ。なんちゅう重さやね‼」
グッズも積もれば重くなる。
ケセラ一人が必死になって袋を持ち上げるものの、一人の力で地球の重力に抗うのは無謀すぎる。
こんな時、お月さんの軽やかな重力とお月見団子が恋しくなるだろう。
「なあ、二人とも手伝う気ゼロやろ?」
ジーラは携帯ゲームに夢中で、リンカはそろばんを弾きながら家計簿を開いている。
お目当てのアイテムを手にした二人には、ケセラの持っている袋は、すでに入らない物と思われているようだ。
「お客様、それではこの電車の開かずの金庫をご利用になりますか?」
「その前にその扉、開きもせんやろー!」
ミクル駅員が駆けつけて、ケセラのピンチを察して声かけをしたものの、返ってきた言葉は意外なものであった。
ミクル駅員はつくづく思った。
この車内に開かずの金庫の鍵開けが出来る駅員も採用して欲しいと……。
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