第3話 床に頭さえも座る行為

 ガタンゴトン、肩こっとん? と今日も警戒しながら軽快に走る四角い車両。

 日の出と共に走る電車という物は今日も朝から忙しい。


『──床に座る行為は他のお客様の迷惑になるのでお止め下さい』


 ミクル駅員の可愛らしいアナウンスが電車内にこだまする。

 キュートな声の彼女が言っても全く説得力に欠ける。

 始めからジクソーパズルの一つのピースだけが同梱されていなかった雑誌の付録のように……。


「あははっ、それでさ、社会科の教師がさー‼」

「それ言えてる。頭の中に妖精でも飼っとるんかみたいなww」


 車内の地べたに座り込んで話に夢中な女子高生な子ギャル二人組。

 これにはケセラたち乗客も困り果てていた。


「アイツらの服装、ウチらの通ってた高校の制服やで。マナーすらも知らんのか?」


 ケセラが眉をしかめながら、向かい側の在校生の女子高生に腹を立てる。

 冷静を乱した彼女の頭の上にはコロンプツンの卵も立ちそうにない。


「……ケセラは世界征服がしたかった」

「あのなあ、征服されてるのはウチらやで?」


 征服されたところで兵士全員がルーズソックスを着用されて、これって見た目によらず、通気性が良い感じーとギャル語を言わされるのだろうか?


「座る席がなくてああしてるのでは? 血も涙もないですわね」


 空席は山ほどあるのに、何も分かってないリンカがケセラに口答えし、これでもかと呆れた仕草で自身の癖ッ毛の髪をいじる。


「それじゃあ、ウチが逆に悪者みたいやないか!」


 ケセラは逆ギレして、ジーラとリンカに感情を抑えられる様子を尻目に女子高生二人の会話はヒートアップしていた。

 だけど、その女子高生の空間だけで目玉焼きは焼けそうにない。


「お客様、困ります。他の乗客の迷惑になりますので」


 見るに見かねたミクル駅員が別車両から出てきて、女子高生二人に注意する。

 日頃、天然な彼女も徐々に成長を遂げてきてるようだ。


「ああん、何だと! このバアさんが‼」


 しかし、女子高生二人も一歩も引かない。

 ミクル駅員の言葉にひいてしまうどころか、逆におばちゃんの言葉をプラスされてしまった。


「それに、そこはさっき酔っぱらいさんが虹のシャワーをぶちまけた場所でもありまして。まあ一応、清掃はしたのですが」

「ああん、それをはよ言えや。バアさんや!!」


 女子高生二人が慌てて床から立ち上がって一目散に退散していく。

 次の行き先は終点お手洗いのようだ。


「ふう。正義は勝つですね」

「おい、ミクル、そんな大事なことははよ言えや」


 ケセラが真っ青な顔になり、口に手を当てる。

 どうやら想像しただけで、追加で頂いてしまったようだ。


「……ケセラ、もらい泣き」

「泣いてないやい‼」

「強がらなくてもいいのですのよ。女の子なのですから」


 ジーラとリンカが温かく出迎える中、ケセラは二人の頭にピコピコハンマーを当てていた。

 

「ピコ! と鳴りつつも、実はボーナスステージを狙っていたのかも知れませんね」

「ミクルもこれの餌食になりたいようやな」

「駅員に暴力は駄目ですよ」


 ミクル駅員はそう言いながら、隣の車内へと移動を開始する。


 所詮しょせんは女子高生のマナーの悪さにも動じない天然さん。

 始めから何事もなかったかのように……。



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