第2話 牛丼かけ込み乗車
プルルルルー!
電車のドアが閉まる合図。
決して筋トレのし過ぎで筋肉が
彼女たちは可憐な女性で筋トレとは無縁の世界であるし、筋肉は言葉を発しない。
「──駆け込み乗車にご注意下さい」
ミクル駅員の可愛らしい声で電車のドアがゆっくりと閉まっていく。
だけど今日の彼女は昨夜ノンアルのやけ酒をしたせいか、やけに真剣な顔つきだった。
「……まっ、待つんだ。フランタースの
そこへ片手に四角い容器を持ったジーラがその閉まりそうなドアに滑り込んだ。
ネットでググると『スライディングキック』とも言う。
「危ないから牛丼をかけ込みながらの乗車は止めてや」
ケセラが顔に飛び散った牛丼の汁をハンカチで拭いながら、露骨に嫌そうな顔をする。
今日も念入りにメイクをしてきたせいか。
「ええ、これはホットな上昇気流ですわ」
「急上昇ワードじゃね?」
リンカが湯気の立つ牛丼を食べているジーラを眺めながら、お嬢様な答えを出すが、ケセラの言う通り、それは誤った認識である。
「ふーん。最近のSNSは牛丼の香りもするんですね。私どもの電車にも再現できないでしょうか?」
ミクル駅員が客席にやって来て、ポケットに納めていたスマホを弄りだした。
そんな暇があるなら作業行程を覚えるということはしないのか……。
今日も彼女は一日車掌なのか?
この鉄道会社は世界地図のように心が広い。
「……それなら『電車でコー』というゲームがある」
ジーラが車のハンドルを握るポーズをしながらゲームの話をしているが、そんなハンドルはこの電車には付いていない。
「電車でコーコー♪」
ミクルがハンドルを切ってコーコーと叫び、ドリフトの仕草をしているが、乗客の身を案じて安全運転で頼みたい。
いや、これは絶叫マシンではなく電車という乗り物である。
「何の鳴きマネやね?」
電車のコーの意味も知らないケセラには、それが動物の声に聞こえたのかも知れない。
「霜降りの肉料理だけに風情がありますわね」
「「……無いわ!」」
リンカが『今度ステーキ店にでも行きましょうか』的なセレブなことを言ってくるが、牛はコーコーとは鳴かせてみせても鳴かないし、鳴き声的に霜降りな牛肉とは限らない。
どうやらケセラとジーラの息の合った一言はこの牛丼の匂いが立ち込める電車を救うことが出来たようだった。
ただ、車窓を全開にまで開けて車内の空気の入れ換えをしただけだが……。
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