50話 拉致

「お姉さん」


「ん? どうしたの?」


 無言で歩き、街がそれを助長する中、ノレジは私に話しかけてきた。


「なんでイツキたちと一緒に旅をしてるの?」


 何故なのかはは・っ・き・り・しているが、それをこの子に伝えるわけにはいかない。


「話の流れでね。私がついていくことにしたの。本来ならイチアに行く予定だったんだけどね」


「イチアに何か用があるの? そういえば、闘技大会があるって聞いたことがある。三人ともそれに出るつもりなの?」


 そういえばそんなのもあったわね。


「そうなの。みんなで頑張って勝ち上がるって誓ったんだけど、道を間違えちゃってね」


「みんな強いの?」


「うん。イツキは力が強くて何でもできるし、ハルはダガーの使い手だし、私は魔術ね」


「総合で出るの? それとも制限で?」


「私は、魔術制限かな。イツキとハルはどうだろ。わかんない」


「僕はこの国から出られないから直接応援できないけど、頑張ってね! また結果を聞かせてほしい!」


「そうね。またこの国に寄った時にでも伝えることにするわ」


 そんな時が来るのかどうかはわからない。


 そもそも闘技大会に出る事すら、ただのでっち上げだが。


 私は横のノレジを見る。


 とても楽しみにしているようだった。


 提案しておくか。


 私は静かに心に決めた。


「ノレジはどこに住んでるの? またオトイックに来たときに行くわ」


 軽い話題を振ったつもりだったが、ノレジの雰囲気は重かった。


「僕の家、か。どこなんだろう」


「……どういうこと?」


「もしこの国に戻ってきたら圭鐘宮に行けば多分僕はいるから」


「わかったわ」


 これ以上は聞かない事にしよう。


「もうそろそろのはずなんだけど。『マピミク』」


 私は再び杖を地に突き刺し唱える。


 違和感。


 私たちの周りを綺麗にマークしているような人が多数。


 囲まれてる?


 私は杖を持つ。


「『ウイシュ』!」


 自分の周りに突風が生まれ、それが広がっていく。


 砂を巻き上げ、砂嵐と化していく。


 それは周りの建物に砂をたたきつけ、隠れている人間を暴いた。


「かかれー!!!」


 建物の裏や屋根の上などに隠れていた人が続々と出てくる。


 数が多い。


「「「『ケルガン』!」」」


 一斉に叫ぶ。


 魔力の球を大量にぶつけられ、砂嵐は霧散した。


 そしてそれを貫通した球が私の方へと向かってくる。


「『バーリャ』!」


 私は結界を張り身を守る。


 球は結界に当たり弾けたり、周りに落ちて粉塵を巻き上げた。


 周りの様子が見えない。


「やめろー! 離せ―!」


 ノレジの声が粉塵の奥から聞こえる。


 それが目的か。


「『ウイシュ』!」


 私は風で砂埃を吹き飛ばそうとする。


 しかし、


「「「『ケルガン』!」」」


 再び大量の球を浴びせられる。


 再び巻き上がる砂埃。


 そして、周りから人の気配が消える。


「『ウイシュ』」


 風で砂埃を消す。


 今度は妨害されることはなかった。


 しかし、周りにはもう誰の姿もなかった。


「メイ?」


 突然、背後から声が聞こえる。


 その声がした方を見ると、建物同士の隙間から顔をのぞかせた、イツキとハルと知らない少女がいた。

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