43話 知りたいと思う心

 店を出る。


 伝票に書かれていた値段を見て唖然としていた二人。


 俺はぼったくりよりもそれを見た二人が店主を脅し始めたのが一番衝撃的だった。


 メイの杖を出すスピードにはやはり感服する。


 結果、お茶の代金はなしになった。


 ハルはその調子でパフェとおはぎもタダにしようとしていた。


 俺が止めに入ろうとした時、奥から小さい子供をおんぶした女性が来て、深く頭を下げられた。


 流石のハルもその光景を見て責めることは難しかったのだろう。あきらめていた。


「あんなやり方はダメでしょ。責めてるこっちが悪いみたいじゃない」


 なお、納得はしていない模様である。


 ハルはさっきからこんな調子で剥むくれている。


 一方、メイの方は、


「あの甘いのもう一回食べたいわー」


 まだはしゃいでいた。


 確かにインパクトは強かったがそこまでずっと余韻に浸れるものだろうか。


 あと、何故俺がおはぎを食べ終わるのと同時にあのパフェを食べ終われたのだろうか。


 永遠の謎である。


 2人で真反対の空気を作り出している。その間にいる俺はどうすればいいのか。


 そんなことを考えている時、ふと、前から全力疾走してくる少年に気が付いた。


 黒っぽい袴を着ている。走りにくくはないのだろうか。


「あのー!」


 そんなことを考えていると話しかけられた。


 息を切らし、それでも眼鏡の奥のキラキラとした目を向けてくる。


「えーと、俺たちに何か用か?」


「ええ! 皆さん旅の人ですよね!」


 ずんずんと詰め寄ってくる。勢いがちょっと怖い。


「まあ旅はしてるな」


「そうですよね! なら今までの体験とか話してくれませんか!」


 妙なことを言い出した。しかも体験を話せと。


「そんなこと言われてもな……」


「お願いします! あ、自己紹介を忘れてました! 僕はノレジ・シェインティアです! 挨拶が遅れてすいません! ノレジって呼んでください! 遠くから皆さんの姿が見えて、つい全力疾走しちゃいました!」


 勢いが強すぎて俺は思わず一歩後退る。


「お、おう、そうか。俺はイツキだ」


「イツキさん! 何でもいいんです! 僕はこの世界の何もかもを知り尽くしたいんです!」


「それは無理でしょ」


 ここでハルが相手のペースをバッサリと切り落とす。


「そんなこと言ってやるなよ。少なくともいろんなことに興味を持つことはいい事だろ」


「私は何もかも知るのが無理と言ったのよ。そんなことを知ったところでただの自己満でしょ。何の意味も価値もない」


 勢いをそがれてみるみるしぼんでいくノレジ。少し可哀そうではある。


「えーと、あなたは?」


「何か好きな事とかないの?」


 ハルはノレジの問いかけを無視し、質問する。


「え、あ、知ること、です。知らない事を知るのは楽しいし……」


「そう、じゃあ、その中でも特に好きなものは?」


「好きなもの?」


「うん、これを知って一番感動したとか、もっと知りたいとか」


「三神獣……。三神獣が好きです!」


「ならどれくらいのこと知ってるの?」


「まず――」


 そうしていつの間にかハルとノレジが三神獣について語りだす。


 三神獣は恐らくバジリスク、リヴァイアサン、ドラゴンのことだろう。


 ぽわぽわしていたメイも元に戻っていた。


「……どうするの」


「まあ喋らせてもいいんじゃない?」


 俺は2人の会話を見ながら言う。


「――じゃあ、弱点とかは知ってるの?」


「弱点はあんまりわかってないけど、何故か『魔の勇者』にだけ三神獣の魔術が効きにくいって言うのは言われている。なんでも三神獣は世界を壊す『勇者』寄りだからとか。でも、確か9年前突然現れて勝手に領土を作られたからそれに困った当時の人たちが『契約』をしたらしい」


「相互不干渉ね」


「そうそう、確かあの時剣聖と超術師が向かったって――」


 俺はその会話に耳を傾け、そして、少し動揺していた。

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