35話 今はまだ
私は2人を確認する。
「『ミュー・バーリャ』」
私は静かに唱える。これで周りに私の声が漏れなくて済む。
そして私は再びこ・れ・を取り出す。
「こちらメイ、応答願う」
返事は直ぐに返ってきた。
『あれ? 言わなかったっけ」
「何がですか?」
『報告の時にいちいち硬くならなくていいって』
「言わなかったっけ」
『何が?』
「こういうのは雰囲気が大事だって」
『必要ないっていったら納得してくれたよね』
「でもこれなくしちゃうと私の個性が。アイデンティティーが!!」
『こんな報告の時にしかわからない、しかもさして面白くもない個性なんてあってないようなものでしょ」
「確かに。じゃあ新しい個性考えよっと」
『そんな話をするために連絡してきたの?』
「失礼な。そんなに暇じゃないわよ」
『じゃあなに?』
「さっきのこと。ど・う・せ・見・て・た・ん・で・し・ょ・? 私たちが廃墟の前を通り過ぎるのを」
『ああ、そのこと』
「ええ、あの時、中に何がいたかわかった?」
『気にしなくて大丈夫だよ。じきに味方になる』
「……誰がいたかは教えてくれないのね」
『結局ね、正義と悪なんてそこらへんに結構転がっているものだよ。そして、それを拾う人も、それをはたから見てた人もどちらかなんて理解することはできない』
「何が言いたいの?」
『どんな人が正義になるか、そして悪になるか、他人どころか本人すら理解することはできない。それだけ知っていればいいよ』
「え、なんかかっこつけてるわね。ダサい」
『そういうこと言われると僕だって傷つくよ。真面目に言ってるんだから尚更ね』
「そういう風に回りくどく言ってるといつか後悔するわよ」
『善処しまーす』
「はぁ、まあいいわ。とりあえずあの宿の中にいる人が誰かはわかってるのね?」
『ああ、それは大丈夫だ。今もあの建物の中にいる。こっちにくる気配はないよ。でもあんまり無理しないでね。もしもの時は出発時に渡したあ・れ・でも使って帰ってきて』
「大丈夫よ、そこまで心配しなくても平気よ」
『分かった。じゃあまた報告宜しく。おやすみ』
「おやすみ」
私はそ・れ・を片付け、横になる。
頭を使い過ぎた。
私はそんなに頭の回転が良くないのに。
ああ、嫌なことを思い出した。
さっさと寝よう。
私は作られた星空に手をのばす。
そこに何もないとわかっているのに、ついつい見た目で、その時の感情で動いてしまう。
私は手の力を抜く。
手が落ちてくる。
星への距離は変わらない。
しかし、なんだか手を伸ばす前より綺麗に輝いたように感じた。
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