34話 就寝

「え?」


 再び声が漏れる。


 メイはずっと火に近づいていく。飛び込もうとしてるのか?


 ハッと我に返り、すぐに引き止めようと追いかけようとするが、ハルが俺の肩を掴みそれを止める。


「ハル?」


「別に心配しなくていいのよ。見て」


 言われた通り見ると、メイが火の中に足を入れていた。


 しかし、メイは熱がるそぶりを見せずズカズカと中に入っていき、やがて体のすべてが火に包まれ見えなくなった。


「……大丈夫、なのか?」


「こんなところで自殺される方があんまりよ」


「じゃああれは何をしてるんだ?」


「休むところの確保でしょ」


 言っている意味がよく解らなかったが、ハルは黙って見ててと言った。


 俺はメイが生み出した火の方を見つめる。


 火のパチパチという音の中に何か声のようなものが混じっているようないないような。


 ふと、先ほどより火の大きさが広がっていることに気付いた。


 気のせいではない。明らかに一回り、いや、二回りほど大きくなっている。


 その時、火の中から、


「二人ともー、入ってきていいわよー」


 メイの声が聞こえた。


「行っていいみたいい」


 ハルはそう言うと先に行ってしまった。


 そして、メイと同様に何の躊躇いもなく火の中に入っていった。


 俺も火の方へ向かう。


 辺りに強い光を発しながら燃え盛る目の前の火。


 近づくとともに熱が体を焦がしているように感じる。


 しかし、二人はこの中に入っていた。


 俺も火の方へ向かい、足を火の中に踏み入れた。


 熱、くはない。


 火の外はこんなに熱いのに踏み入れた足に火の熱は感じられなかった。


 俺はそのまま勢いよく火の中に入る。


「やっと来たわね」


 メイが俺に声をかける。


 中は外が火で囲まれていることを忘れるほど快適な温度だった。


 そして、あんなに激しい光を放ち燃え盛っていた火は、内側からは一切感じられなかった。


 月明かりに照らされた夜空のように、寝るにはちょうどいい明るさだった。


「眠くなってきたわね」


 メイは大きく欠伸をする。そして、俺の視線に気が付くとサッと口元を手で隠す。


 恥ずかしそうに頬を紅潮させている。


「私はもう寝る」


 そう言ってハルは自分の着ていたローブを下に敷きその上に寝転ぶ。


 すぐに寝息が聞こえてくる。顔にスカーフを巻いたままで息苦しくないのだろうか。


「じゃあ俺も寝ようかな」


 そう言って俺も寝転ぶ。


 ハルとは違い、俺が寝転んだのは自然のベッドだが。


 ハルがローブを脱いでいるときに気が付いたのだが、俺は自分の着ている服に意識を向けたことがなかった。


 俺は下を見る。アカソの街中でよく見た服装だった。


 the庶民。それ以上でも以下でもなかった。説明のしようがない。


 メイは魔法使いのような黒や濃い紫ぐらいの色で統一されている。


 ハルは髪色にあった真っ白な服だ。なぜ全然汚れが目立たないのかが気になる。汚れをはじく魔法でもついているのだろうか。


 そんな二人と一緒にいたのかと思うと今更だが自分が浮いているように感じた。


「イツキ、寝ないの?」


 メイがこちらの顔色をうかがいながら聞いてくる。


「もう寝るよ、おやすみ」


「はーい、おやすみ」


 ていうか。


「一緒の空間で寝ることに抵抗とかはないの? 一応俺も男なんですけど」


「何も対策しないと思ってるの?」


 いつかの微笑みを俺に向ける。


「『エクスパー・バーリャ』」


 メイは何かを唱える。メイの周りに薄い膜のようなものが張られる。


「これで他の人がこの結界に近づいたら木端微塵に吹き飛ぶから、なんなら試してみる?」


「遠慮しておきます。ていうかハルも入れてやれよ」


「嫌よ。襲われるかもしれないじゃない」


 こっちの世界もそういうのはあるのか。


 怪しまれないように、俺は端を陣取り寝ることにした。


 目を閉じる。すぐに意識は飛んでいく。


 俺は深く落ちていった。

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