36話 鳴き声

俺は突然目が覚める。


 自分でも驚くほどはっきりと意識が覚醒した。


 どのくらい経ったのだろうか。


 周りは明るいオレンジの光を発している。


 そういえばここは火の中だった。


 でも、寝る前は暗かったような。


 まあ魔法なんて俺には理解できないものか。


 2人はまだ寝ている。


 近づくと色々と疑われそうなので距離に注意しながら、俺は俺たちを纏う火の壁へと近づいていく。


 触れてみても特に温度は感じない。触っている感触もない。


 それをスッと通り抜けて、俺はあっさりと外に出られた。


 空を見上げると綺麗なオレンジが広がっている。


 朝焼けだろうか。


 空にポツンと浮かんで俺たちのすべてを照らすあの恒星は太陽だろうか。


 それともまた別の星なんだろうか。


 そんなことを考える。


 いつか答えを知りたいと願いながら。


 空は青色を帯びていく。


 妙に目が冴えてしまった。


 周りからもグルルと獣のような鳴き声も聞こえる。


 ……鳴き声?


「え?」


 いつの間にか俺は血走った眼をこちらに向けてくるオオカミのような動物に囲まれていた。


 それも大量に。


 見た目は黒く澱んだ色をしており頭の高さは俺の腰を優に超えている。


 それが何十体もわらわらと湧いて出てくる。


 辺りに獣臭がたちこめ、空気が張り詰めるのがわかる。


 俺は2人がいたあの火の中に飛び込もうとする。


 この量を相手にするのは分が悪すぎる。


「熱っ!」


 しかし、その火が俺を受け入れることはなかった。


「え」


手の焼ける感触。俺は慌てて手を引っ込める。


 一回出たらもう中には入れないのか?


 その間にも獣はどんどん増え、俺は大量の視線を浴びている。


 殺意に満ちた視線。こいつらが俺を逃がすつもりがないのだと悟った。


 ならば。


 俺は奴らに向き直る。


 確か火の中は外の音はほとんど聞こえない。


 しかし、目の前で戦っていればいずれ異変に気付いてくれるはずだ。


 そう信じるしかなかった。

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