33話 木の棒

 俺はどんどん早足になっていた。


 そうなっていることはハルに注意されてようやく気付いた。


「ねぇ大丈夫? どうしたの?」


 ハルは心配そうに俺の顔をじっと見ている。


「え、ああ、すまん」


 俺は何も考えずに返事をする。


 先程の目がまだ頭から離れない。


「ちょっと速すぎない?」


 ハルの後ろから声が聞こえる。


 メイが息を切らしながら小走りで近づいてくる。


「はぁ、はぁ、どうして急に早足になったの?」


「それは……」


 俺は先ほどのことを二人に伝えるか迷った。変に怖がらせることに意味はあるのかと。


 ただ、ここで隠すことはせっかくの仲間を失う亀裂の一端になりうるかもしれない。


 この世界では俺の知り合いなどこの二人以外にいないのだ。


「あのな……」


 俺は先の一件を話した。


 と言ってもそんなに長くはかからない。


「「……」」


 2人は沈黙する。


 何を考えているのか、俺にはなにも読み取れなかった。


 夜が更けた森の中、草木の擦れる音がやけにうるさく感じられる。


「……まあ、何もなかったからいいんじゃない? 考えすぎよ」


 やがて、ハルが口を開く。


「あの建物には誰かいるって話をしたでしょ? その中の一人が偵察でもしてたんじゃないかな。そういうのはこっちが近づかないと攻撃してこないと思う」


「まあそうね。私もハルの意見に同意だわ」


 そして、メイもハルの意見に賛同する。


「ずっと歩いてたんだもの。ちょっと疲れてるんじゃない? 今日はここで夜が明けるまで休みましょ」


 メイはそう言うと『道』から逸れ、ちょうどいい倒木を見つけるとそこに座る。


 それに続きハルも少し離れて座る。


「イツキ、ちょっと木の棒を集めて」


 メイが俺にそう指示する。


「なんで?」


「必要だからに決まってるじゃない。レディーを働かせるの? なんて甲斐性のない男なの」


「レ、レディー?」


「お、喧嘩する?」


 どこからともなく出てきた杖を俺に向け静かに微笑む。圧力を感じる。


 俺は屈する。


 そもそもそんなに歳をとっているようには見えない。

 しかし、女性に年齢の話はNGだというのは有名な話だ。従うか。


「わかった。どれくらい集めればいい?」


「それはイツキに任せるわ」


「わかったよ」


「頑張れー」


 ハルは棒読みで俺を鼓舞する。


 俺はそこら中に落ちている木の棒を集め、メイの前に置いた。


「少ないわね。もっとよ」


「はいよ」


 俺は再び木の棒を集め出す。


 そしてまたメイの前に置いた。


 木の棒は俺の腰まで届くぐらいの山になっている。


 拾い集めてみると案外たくさん落ちてるんだなと少し感心する。


「まあまあね。いいわ、少し離れて」


 俺は言われた通り少し離れて何をするのかじっと見守る。ハルはすでに遠くでその様子を見ていた。


「『フレンマ・バーリャ』」


 メイがそう唱えた瞬間、目の前の木の束がオレンジの火を纏い、燃え盛り始めた。


「え?」


 俺が唖然とする中、メイはその火に近づいていった。

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