31話 地雷
「じゃあ十分に休憩したしそろそろ行くか」
「え、あ、はーい」
「ちょっとちょっと」
メイは困惑しながら返事をするが、ハルは俺を止める。
「ハル? どうした?」
「どうしたじゃないよ、もう日が沈みそうなのよ」
少し休憩したつもりだったが、いつの間にか結構時間がたっていたらしい。
闇が森の中に広がろうとしていた
「大丈夫大丈夫、さあ行くぞー」
「え、おー」
「メイもなんでイツキに乗っかるのよ……」
ハルは多数決に負け、しぶしぶ歩き始めた。
森には静寂が漂っていた。
静寂を足音で塗りつぶしていく。
俺たちは暗闇の隙間を進んでいる。
「この方角で合ってるのか?」
俺はふと不安に駆られる。日が完全に沈んでしまった今、方角を確かめる術など思いつかなかった。
「そろそろわかるはずよ」
そんな俺の思いを一蹴し、メイはずんずんと前に進んでいく。
俺とハルは少し早足になりながらついていく。
「ここね」
メイが止まる。俺達も追いつく。
目の前には草がなく地面が露出している道のようなものが続いている。というか道だ。
「これがさっき言っていた『道』か?」
「ええ、野宿するならこれの近くがいいわ。もしも魔物に襲われても『道』に入れば逃げれるし安全よ」
「この森を通り抜けるには何日もかかるなら、『道』の途中に宿とか作る人はいないのか?」
「前はあったらしいけど、最近はめっきり減ったよ」
「最近『道』を通る商人とかを待ち伏せをする賊が増えてね、それと同時に宿も襲われるから無くなっていたのよ。ここはどこの国の所有物でもないって決まっているからどこの兵も駐在してないし」
賊。
俺には引っかかる点があった。
「そういえばハルは」
俺はそこで言葉を止める。ハルから圧とピリピリとした空気が漂ってくる。
そして、それと同時にメイも静かになる。
どういうことだ?
「まあいいや、ここで休憩するかまだ歩くかどっちがいい?」
俺は話題を変える。明らかな地雷を踏みぬく趣味はない。
またその時が来れば聞いてみることにしよう。
「道なりに進めばいつかは前に宿だった空き家があるはずよ。そこに行きましょ」
「できれば野宿は嫌ね」
「じゃあそこで休むことにするか。あとはその空き家までどのくらいか分かればいいんだが」
「それならわかるわよ。ちょっと待ってね」
メイは手を開き前へと突き出す。するとその手のひらから光が現れた。
光はやがて実体を持ち、それは棒状に長く大きくなっていく。
そして、メイは手を握った。先程現れた杖を掴むために。
「……」
俺が呆気に取られていることを気にせずメイはその杖を地面に突き刺した。
「『マピミク』」
メイが目を瞑り何かを呟いたその時、杖を中心にして同心円状に白い光が広がっていく。
それは『道』の向こうまで広がっていき、森の中に消えていった。
どれくらい経っただろうか、徐にメイが目を開けた。
「わかったわ、結構すぐ近くにあるみたいね、行きましょ」
メイはそう言うと歩き出す。俺もそこに続いた。
「ハル? どうした?」
ハルは動いていなかった。森の中を見つめて黙っていた。
「……気のせいね」
なにかぼそりとハルが言葉を零す。言葉までは聞き取れなかった。
「大丈夫か?」
俺はハルに駆け寄る。
「ええ、何でもないよ。ごめんね。早く行きましょ」
そういうとハルはメイについていく。
俺はハルのそんな様子が少し気にはなったが、先に進んでいるハルたちに追いつくために、俺は『道』を駆け出した。
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