30話 『道』
「まだ森から出られないのー。もう足が動かないー」
「大丈夫、死にはしない」
「そういう問題じゃないの!」
ハルが弱音を吐き始める。
確かに一向に森から抜け出せる気配はない。ここらで休憩するのが正解か。
「まぁちょっと休憩するか」
「ほんとに? よっしゃー」
ハルはすぐそこに転がっていた倒木に腰を下ろす。横にメイが続く。
俺はその横で木を蹴っていた。
バキッ!
蹴りひとつで木は折れて倒れる。
葉同士が擦れ合い、色んな音を辺りに響かせながらそれは倒れた。
「方向は……、よし、完璧」
ハルたちの方を見ると倒れた木を見て固まっていた。
「急にどうしたの? なんで木を?」
ハルは口だけを動かしそう言う。
「ああ、一回休憩するから歩くべき方角がわかるように木を倒したんだよ」
「確かにここじゃ方角がわからないね。にしても豪快だけど……」
言いながらハルの首は周りを見渡すように左右へ回る。
「あのー」
その時、メイが遠慮がちに声を出す。
「ん、なんだ?」
メイの方に視線を向ける。
「ちょっと気になったことがあるんだけど、聞いてもいいかしら」
「どうぞ」
「あなたたち二人はなんで聖域にいるの?」
メイは静かに確言する。
「それは……」
俺は言葉に詰まる。あまり聞かれたくない質問だった。
ハルは俺を睨んでいた。
ハルからしてみれば無理やり森に入らされたのだ。
俺は謝罪の意を込めた視線を送る。
睨みは収まらない。どうやら届かなかったようだ。
俺の視線を再びメイに向ける。
「俺が聖域に興味を持っていて、入りたいって言ったんだよ」
「バジリスクを知らなかったのに聖域の何に興味を持ってるの?」
やべ、墓穴を掘ってしまった。
ハルからの睨みが一層強くなる。助ける気はないらしい。
「じゃあなんでメイはこんなところにいて、バジリスクに追いかけられていたんだ?」
「……探していた人がいてね、ちょっとこの森を通らなくちゃいけなかったの」
「でも『道』から外れる必要はなかったんじゃない?」
俺を睨んでいたハルはいつの間にかメイに視線を向け話しかけていた。
2人の間でピリピリとした空気が流れる。
「……最近よく『道』を通る人が襲われるって話をよく聞くじゃない? 怖かったから『道』から逸れたのよ」
「でも『道』から外れればバジリスクに追われることはなかったはずよ。賊と神獣のどっちが怖いというの?」
「それは……」
「なあ、『道』ってなんだ?」
勝手に話が進んで俺がついていけなくなっていく。俺はハルに問いかける。
「『道』、正確には『守護の道』と言うの。それは神獣を含めたあらゆる魔物から守られている道よ。そのまんまね」
「なんでそんなものが存在してるんだ?」
「不便だからよ」
「……え?」
思ったより中身のない回答だった。
「中身のない回答だと思ったでしょ」
ハルがニヤッと笑いながら言う。
「でも結局これに尽きるのよ。この森ってとても広くてね、国から国へ移動するときにこの森を突っ切るのと回っていくのでは5日ぐらいくらい違うこともあるの。だから契約で『道』だけは通れるようにと神獣と交渉したのよ」
すごくシンプルな理由だった。
「で、メイの話だけど」
ハルは再びメイに顔を向け話し出す。
「誰でも聞かれたくない事の一つや二つはあるでしょう。だから今回は聞かないであげる」
「え、そう? なら助かるわ」
そこで会話は終わった。
2人の間にあった嫌な空気はいつの間にか消えていた。
そして、メイの何かを理解したような表情にイツキは気付いていなかった。
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