22話 会談

 私は会談に向けて準備する。滞りなく用意ができていることを確認する。


「陛下、私共はいつでも大丈夫です」


「わかった。今から行く」


「はっ」


 王宮の中を歩くのにも衛兵が付いてくる。煩わしいが仕方ない。


 そして先日とは違う一回りちいさな会議室に足を運ぶ。


 まだアルベガ殿が来るまで時間がある。議題について少し考えておくか。


 そして私は会議室までたどり着く。扉の前に立つ衛兵が一斉にこちらを向き頭を下げる。


「陛下、アルベガ様はもうお見えになっています」


「早かったな、わかった。報告ご苦労」


 私は扉をノックする。


「ケニルか?」


「そうです。入ってもよろしいですか?」


「ああ、いいぞ」


 扉を開け、私は部屋の中を見る。後ろでは扉が静かに閉まる。


 部屋の中には静かに音を鳴らす暖炉、上にはろうそくが乗ったシャンデリアがあり、部屋を暗く、しかしはっきりと照らしている。


 私は座っている人物に目を向ける。フードを深くかぶっており顔の表情を読み取れない。


「遠くからわざわざありがとうございます。本日はよろしくお願いします」


「そうかしこまるな、我とお主の仲だろ」


 彼はとがった牙をきらりと光らせながら言う。


「では早速始めましょうか」


「ああ」


 私は彼の前に座る。持ってきた資料を広げながら彼の方を見る。


 彼はフードを外していた。その顔は深い毛におおわれ、頭の上には獣のような耳が生えている。


 彼は私の視線に気が付くと、にやりと口元を歪ませる。


「まだ慣れないか?」


「ええ、じろじろ見て申し訳ございません」


「いや、仕方ない。そもそも外と干渉しようとしなかったのは我々だ。自分と明らかに違うものを見ると興味を持つことは自然なことだ」


「気を付けます」


「まあいい。では、最近になって我々亜人、特に獣人が人間からの攻撃を受けているのだが」


「それはこちらでも調査しています」


 私は手元の資料を相手に渡す。


「すべての物に優劣をつけようなど馬鹿も甚だしい。人間はそのあたりの考える力がないみたいだが」


「私は違います」


「ああ、それは悪かった。お主のことは信用している。だからほかのやつの前ではフードを外さないがお主の前では外しているだろ?」


「信用いただけてありがたいです。私もあなたと仲違いをしたいとは微塵も思っておりません」


「ならいい。それで、ずっと攻撃してくる人間に目星はついたのか?」


「あるグループが浮上しています。『黒幕の英雄』というグループです」


「それはなんだ?」


「二年ほど前から現れた謎の組織です。実態は全くの不明ですが。しかし今日、その一部を捕まえることが成功したので今いろいろと尋問しているところです」


「ああ、今日我らを襲っていた輩か」


「ええ、ご無事で何よりです」


「てっきりお主ら人間からの宣戦布告かと思ったが」


 じろりと厳しい目を向けられる。


「そんなことは絶対にありません」


 目つきが元に戻る。


「ああ、わかっている。そうだ、その組織で思い出したが」


「はい、なんでしょう」


「あの時助けてくれた青年はどうした?」


「……」


「どうした? 何かあったのか?」


 アルベガ殿は怪訝そうな顔を向ける。


「彼は、いつの間にかどこかに行ってしまいました」


「そうか、礼を言いたかったんだがな。また会ったら礼を言っていたと伝えてくれ」


「わかりました」


 そのまま会談は順調に進んでいった。






「……今日の議題はこれで以上になります。他に何かありませんか?」


「特には」


「わかりました。じゃあ外の者をいれますがよろしいですか?」


「ああ」


 アルベガ殿はフードをかぶる。


 そして外から部下が何人か入ってくる。


「またいつか会おう」


「ええ」


 アルベガ殿は部下に連れられ、外に出ていった。


 外を見るともう日が沈みそうだった。オレンジの光が廊下で満ちてで美しく輝いていた。


 私はそんな光に包まれながら、自分の部屋へと向かった。

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