21話 国際最重要会議(3)

 私は王宮に急ぐ。先程の光景を伝えなければ。


 入り口の守衛の前を顔パスで通り、急いで会議室へと向かう。そこでは極秘の会議が行われている。その極秘を私が知っていていいのかは疑問だが。


 そして会議室の扉が見えた時、中から一人の男が出てきた。


 あれは、確かアルベガ様の護衛役。ということはアルベガ様がここに着いたのか。


 彼は少し項垂れていた。すれ違う時彼の顔を見てみると、それは憎悪に満ちていた。


 関わらないほうがいいだろうと私は何もしゃべらず横を素通りする。


 そして扉の前に来る。いつもは優雅な雰囲気で満ちているこの王宮だが、今は空気が張り詰めていた。


 一呼吸置き、静かにノックする。


「誰だ?」


 中からそんな声が聞こえる。私は静かに扉を開き、中に入る。


「失礼します。騎士団副団長のフェモネです。ご報告があります」


「どんな報告だ? 聞こう」


 会議に参加している誰もが私に視線を浴びせる。私はその視線に耐えながら、静かに話し出す。


「通達されていた黒髪の男と銀髪の女を発見することができたのですが、逃げられてしまいました」


「……そうか」


「人があまりいない方へ追い込み魔法で仕留めるつもりだったのですが、魔法を避けられてそのままあの外側の防壁を飛び越えて国の外へ逃げていきました。大変申し訳ございません」


 誰もが終始無言であった。喋る言葉が見つからないようだ。恐らくあの高い防壁を飛び越えてというところに驚いている人物が多いのだろう。


 私は静かに誰かの言葉を待ち続ける。この空間に長居はしたくない。


「フェモネよ」


 私は顔を上げる。ついに解放されるか、という希望を持っていたが、それは見当違いだった。


「相手は魔法を知らない」


 私はその言葉にポカンとした。言っている言葉は理解できるのだが、なぜそんなことをいうのかがわからない。


「彼の元居た世界に魔法は存在しない。故にこちらの人間である私たちが教えなければ」


 そこで陛下は一呼吸をおく。そして重々しく言い放った。


「彼は魔法を使えないはずだ」


 ゾッと背筋が凍るのがわかる。ようやく陛下が言いたいことが理解できた。


「今日、君は彼に対して魔法を使った。そして、彼はそれを一瞬で使えるようにした。これがどういうことかわかるか?」


「……迂闊に魔法は使えないということですか」


「そうだ、魔法を習得するのは簡単ではない、なのに彼は呪文を聞いて唱えるだけでそれを自分のものにした」


「つまり、彼に魔法を使えば使うほど、武器を与えることになるということか」


「正確には『色んな魔法を』だけどな。厄介だな、今まではこんな奴はいなかったのに」


 皆は口々に口を開く。


「じゃあ彼を魔法なしで捕まえろって事ですか?」


 私は陛下に向かって言う。そして、しまったと思った。


「使うなとは言わん。ただ使うときは絶対に捕まえられる自信がある時にしてくれ」


 それはつまり使うなって事ではないのか、私はそう思ったがこれ以上話しても何にもならない事はわかっていた。


「報告ご苦労、下がって良いぞ、フェモネ」


「……最後に一ついいですか」


「なんだ」


「彼は今、街の方で噂になっている、魔の勇者なんですか」


 私はこれの答えを求めているわけではなかった。確信するための一押しが欲しかっただけだ。


「……」


 静寂が続く。誰もがそれを認めたくはなかった。


「……ああ、恐らくそうだろう。あくまで多分としか言えないがな」


「……そうですか。わかりました」


 私は静かに会議室を後にする。後に残ったのは、俯き、頭を抱えているこの国の王と、放心状態になっているほかの国の代表だけだった。






 会議は終わった。というより、続ける気力など無かった。誰からともなく立ち上がり、そして部屋を出ていった。


「またこの神話の話が現実で起こるとは」


 もう終わったと思っていたのに、どうしてまた勇者は来たのだろうか。


 そんな答えが返ってくるわけのない疑問を頭の中で抱え続けていた。


 明日はアルベガ殿と会談だ。今日はもう寝よう。どうせできることなど何も無い。


 私はベッドに体を倒す。すぐに私の体は睡魔に蝕まれていった。

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