16話 男の情報提供

「ねぇイツキ、大丈夫なの?」


「え、何が?」


「さっきから何か思いつめた顔をしてるけど。さっきは何の話をしていたの?」


 俺とハルは再び街を歩く。しかし、俺には町の景色を楽しんでいる余裕はなかった。


 さっきの話が頭に残り続けている。


 王宮に監禁、凄まじい力、そして、異世界の人間。


 思い当たる節がいくつもあった。そして、それに気づく度に俺の気分も落ち込んでいった。


 ただの勇者ならよかった…いやよくないが、それでもまだましといえるだろう。


 まさか世界から嫌われた闇落ちした勇者だとは……。


 まともにここで暮らすことはできるのか?


 しかも、このままだと一緒にいるハルにも迷惑が掛かってしまう。


 これからどうするべきか、俺はずっとそのことを考えていた。






「ちっ、逃がしたか」


「こちら魔力感知部隊、反応が消滅、対象を見失いました。」


「は? なぜ反応が消えた?」


「原因は不明です。至急調査しております。」


「……クソッ!」


 すぐに私はある場所へ向かう。


 王宮の中から出てきたあの二人組、話しかけたらすぐ逃げ出した。慌てて魔力を記憶し、それを感知、追跡するつもりだったのに……。


 先回りしていたのに、路地裏に入ると行方をくらました。


 敵のあの走るスピード、二人から感じる魔力、ただ者ではないと判断して、油断させるという作戦が裏目に出てしまった。


 しかしどうやってこの魔力感知から免れた?


 先回りして逃げ道を完全につぶしている状況、簡単に振り切ることなどできないだろう。


 そんなことを考えながら、反応が消えた路地裏にたどり着く。


 するとそこにいたのは、大量の瀕死の男たち。


 私はその光景に一瞬放心してしまう。が、すぐに手当てに向かう。


「『メーディ』」


 男たちの体は光に包まれている。すると、みるみる傷口が塞がっていく。そして、何人かの意識が戻り始める。


「おい、何があった?」


 私は問いかける。しかし、誰も答えない。心ここにあらずといった様子だ。


 やがて、一人の男が口を開く。ほとんど怪我がなく、軽傷だった男だ。一番状態がよかった。


「あれは、化け物だ」


「は?」


「手を出すべきではなかった。動きが早すぎる。力が強すぎる。いつ死んでもおかしくなかった。」


 何か嫌な予感がする。今はあの王宮に嫌な噂が立っているのだ。もしかしたらそれは噂ではなく事実なのかもしれない。


「姿は覚えているか?」


「え、ああ、黒の短髪、背は俺よりも少し低いぐらい。あと、ここらでは見ない服を着ていたな。」


 どれも決定打に欠ける。とりあえず何者かがここに居たのは事実だ。あとでそれも調査しよう。


「ああ、あと」


「うん? なんだ?」


「白い紙の女性を連れていた。俺たちはそいつ目的であいつと関わったんだ。はは、今の今まで忘れていた」


「……そうか、情報提供感謝する。あと今回のことは口外禁止で頼みたい。その代わり、お前たちのけがの治療と今回したことの黙秘ということで。どうだ?」


「ああ、わかった。もう二度としたくねーよ。こんなこと」


「後で他の者をここに呼ぼう。じゃあ失礼する」


 そして私は部下にその場を任せて大通りへと歩みを進めた。

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