15話 この世界にとっての勇者
話が聞こえる所まで近づく。
「ねぇ、結局あの噂って本当なのかしら」
「魔の勇者が現れたっていう話?」
「そうそう、今は王宮の地下に監禁しているって聞いたわ」
不穏な話を耳にした。
勇者を監禁? いったい何のために。
「監禁なんかしないでさっさと殺せばいいのに。王は一体何がしたいのかしら」
勇者っていうのは俺が考えているのとは違うのか?
勇者といえば世界を危機から救うヒーローってイメージなんだが。
それとも何かの隠語か?
「今も極秘の会議が進んでるって噂よ」
「極秘の会議なのに噂として知られちゃってるのはどうなのかしら。
もし仮にそんな会議があったとしたら何について話しているのかしら、
話している余裕なんてあるの?」
「あの、その話、詳しく聞いても?」
俺は近くにいた女性に尋ねた。
「その話っていうのは?」
「魔の勇者っていうものについて聞きたいんですけど」
「え、あなた知らないの?」
「ええ、まあ、少し遠いところから今日来たばかりで」
「そう、大変だったわねそれは」
「いえ、そんなにですよ」
「で、魔の勇者についてだったわね。こんな言い伝えを聞いたことはない?
ある日突然この世界に現れた人間が凄まじい力を持っていて、その力で世界を滅ぼそうとする、しかし、そこに現れた勇者がそいつを倒す、っていう言い伝え」
「すいません、聞いたことがないです」
「そう……。あのね、細かい言い回しは忘れちゃったんだけどそういう話があってね、この話は結構有名なの。子供の頃から聞いているおとぎ話みたいなもの。
でね、おとぎ話ってたいていが作り話でしょ。だから、子供の頃は信じていても、大人になるにつれて印象が薄れて忘れちゃうのよ。話を聞いて初めて、ああ、そんな話もあったなっていう感じで、もう思い出みたいなものになるの」
話していた女性が急に黙る。そして重い口を開いて言葉を紡いだ。
「だけど、今から大体12年前だったかしら。そんなうろ覚えだった言い伝えを思い出させる出来事があったの」
「今話した言い伝えの中に出てきた、世界を滅ぼそうとする人間が実際に現れたのよ」
いつの間にか場が静まり返っていた。周りで輪になってひそひそ話をしていた人も何もしゃべっていなかった。
「でも、なぜそんな人が魔はともかく勇者って呼ばれてるんですか?」
俺はようやく最初からの疑問を聞くことができた。
「そのお話の中ですでに魔の勇者って書かれていたのよ。なぜ勇者って書かれているのかっていうのは明確に書かれているわけじゃないけど、1部の噂では、そいつを殺した勇者と同じ類の人間だから、同じように呼んでいるって言われてるわ」
「えっと、どういうことですか?」
俺の頭の中でははてなマークが浮かんでいる。同じ類ってどういうことだ。
「ちょっと話が長くない?」
その時、ハルが近寄ってきた。しまった、すっかり話し込んでいた、待たせすぎたか。
「もうちょっと待ってくれ、もうすぐ終わる」
「その方はお連れの人? 待たせて大丈夫なの?」
「ええ、それよりも同じ類の人間っていうのはどういう?」
「ああそれはね……」
俺はその先の言葉を聞き、目を見開いた。
「勇者と呼ばれる人たち、全員異世界から来たそうよ」
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