14話 お金がなくてはつまらない

 俺は辺りを見渡す。ハルはどこに行ったのだろうか。


 もしかしたらほかに仲間がいて連れて行かれた? いや、それならさすがに気が付くはずだ。


「殺さなくてよかったの?」


「うわ!?」


 後ろから突然声が聞こえる。


 振り返るとそこにはハルがいた。


「ハル、お前どこに行ってたんだ?」


「? 壁の方にくっついてたわよ。私、戦闘ではできる事ないし、邪魔にならない様に」


「うーん、そうか」


 さっき見逃したのか? そういわれるとちゃんと見たのか自信がなくなる。


 釈然としないまま、俺は路地を後にした。






「へー、確かに商業が盛んってだけはあるな」


「見て見て! あれ美味しそう!」


 路地から出た先は大通りだった。


 馬車に乗ってきたときには見なかった店ばかりなのでこれはあの時の大通りとは別なのだろう。


 それはともかく活気がすごい。


 ハルも今までで見た事ないほどはしゃいでいる。


 目をキラキラさせていろんな店を見ている。少しだけ精神年齢が下がったみたいだ。いつもの大人びた雰囲気からは想像できない。


 ハルに影響を与えるほどのこの空気、あてられて何か必要ないものまで買ってしまうそうだ。


 って、あ。


「なぁハル?」


「お金なら持ってないわよ」


 心を読まれた。そしてその瞬間、俺たちの空気だけ活気が失われていった。


「何も買えない祭りほど、きついものってないよな」


「そうね」


「何か金が稼げるものとかないのか」


「一応ギルドとかはあるらしいわよ」


「ギルドねぇ、ハルはギルドに入ってる?」


「……あれは入ってるというのかしら」


 少し黙ったあと、そう言ったハルの表情はあまり明るいものではなかった。


「まぁ私は少し特殊なのよ」


 しかしすぐに表情が明るくなった。


 俺はその表情の変化が気になったがあまり言及しないことにした。


「イツキはギルドには入ってないのよね」


「え、ああ」


 そもそもそんなものがあるということ自体さっき知りましたはい。


「この国にギルドはあったかしら」


「ない国もあるのか?」


「国直属の軍や騎士がギルドで雇われる人の代わりに依頼を引き受けるのよ。……イツキってなにも知らないのね」


「あはは……」


 ちょっと無知をさらし過ぎてしまった。ハルに変なものを見るような目で見られる。


「ねぇ、私たちってお互いのこと何も知らないでしょ」


「うん、そうだな」


 きっかけが偶然だったし、その後いろいろあったしな。話す機会がなかったのは事実だ。


「じゃあのんびり街を歩きながら話しましょうよ」


「いいな、それ」


「じゃあ私からの質問、イツキの出身はどこなの?」


「え」


 いきなり躱しにくい質問が来た。変に誤魔化しをするわけにはいかない。


 どうするか。とりあえずそれっぽい事を……


「この大陸の東の方にある山奥の村が生まれだ」


「村?」


「そう、あんまり人口は多くなかったと思う。まああんまり記憶はないんだけどな」


 この世界にどんな国があるかわからない以上、とりあえず村とか言ってればボロも出ないだろう。


「ハルはどこ出身なんだ?」


 話の流れで聞いてみる。どこか聞いてもわからないけどここで聞かなければ不自然だろう。


「私はアコークフ国出身よ」


 うんわからん。


「じゃあ次の質問――」


「えっと――」


 そうして質問を出し合ったり雑談したりしながらのんびり街を探索していった。






「それで、その時に……」


 喋りながら歩いていた俺はふと、ある場所が目に入る。


「どうしたの?」


「なぁ、あの人だかりって何だろう」


 俺が気になったのは大通りから少し離れた裏道のようなところ、何人かが集まってひそひそ話をしているように見える。


「それがどうかしたの?」


 そう、別に怪しいものの密売など、そういうものではない。


 しかし、何か気になる。


「ハルは少し待っていてくれ」


「え?」


 俺は返事を聞かずに人だかりの方へと走っていった。

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