9話 脱出
痛いのは嫌なので、俺は身じろぎする。それを見たミナトは、
「無駄ですよ。それは
ミナトは口角だけを上げた笑みを浮かべる。目が笑っていない。
そして彼は近づいてくる。ゆっくりと。勝ち誇った表情を浮かべる。
そして彼の表情から何かを感じ取る。この時を待っていたといわんばかりの表情だ。これは憶測でしかないが俺に何かしらの憎悪を抱いているように見える。俺が何をしたって言うんだ。
「今度こそ……、今度こそ……」
こちらに近づきながら何かをぶつぶつと呟いている。そして俺の前まで来ると、思いっきりナイフを振り上げた。
その時、俺は無意識のうちに唱えた《《》》。
「『解放』」
刹那、牢屋に光が満ちる。
その光の源は俺の背中にある手だ。次の瞬間、けたたましい音とともに俺の手から何かが放たれるのを感じる。前にいたミナトと護衛の人は吹き飛び、鉄格子に体をぶつける。そして、地面にしりもちをつき、そのまま動かない。
俺は手を動かす。すると、難なく動く。手の障害物はすべて吹き飛んだようだ。地面に手錠が落ちている。ほかの鎖や、足を固定していたブーツも消し飛んでいた。
俺は立ち上がる。石壁を詳しく見てみると亀裂が入っており、いつ崩れてもおかしくないような状態だ。早くここから立ち去ることにしよう。
俺は気絶している彼らの横を通り、通路に出る。鉄格子も吹き飛んでいた。
「じゃあな、さよなら」
俺は気絶している彼らに背を向けながらそう呟く。
通路を歩くこと少し、とうとう通路の端まで来た。前には扉がある。そして、その重々しい鉄らしき扉を開ける。ギギギと鈍い音を出しながら開いたその隙間から光が差し込んでくる。
全部開けると前には石の階段があった。光はその上から入ってきていた。それを確認して俺は階段を上り始める。少しこのあたりが煙たい。俺は少しせき込む。
階段を上り切るともう一つ扉がある。その扉には小さな鉄格子が付いており、光はそこから入ってきているようだ。扉を押して開ける。バキッという音がしたが別に気にしない。何の音かわからない以上気にしても無駄だろう。
その扉の先には廊下があった。
この一部始終を見ていた二人。
「ねぇアオイ、これってどう思う?」
「今の魔法のこと?」
「そう、彼はあの強力な消滅魔法《《》》を放とうとしていたように見えた」
「しかも、たった一つの詠唱で?」
ハルトが言うつもりだった続きの言葉をアオイが先取りする。
「そう、あれは確か長い詠唱が必要だったはずだ。少なくとも一言で放てる魔法じゃなかったよな」
「あと、その魔法を打つとき、解放って言ってなかった? 彼の能力はそれかしら」
「待て、その言い方だとまるで」
「何言ってるの。現実を見なさい。どこをどう見たら否定できるの?」
「それは……」
「でしょ? かといって私たちに何かできるわけじゃないんだけど」
「とりあえず、今は彼の幸運を祈っておこう」
「「彼の未来に幸あらん事を」」
そして彼らは姿を消した。
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