8話 牢屋に現れたゴースト
俺は目を開ける。視界に入るのは暗く、ジメッとしている空間。
暗いところに目が慣れてくると、部屋の中に閉じ込められているのがわかる。そして前には鉄格子。
「牢屋、かな」
体は鎖で縛られており、手には手錠なようなものがつけられ身動きが取れないようになっている。しかし、なぜこんなところにいるのか。
「怪しいやつを家に入れるわけないよな」
平和ボケしすぎていたらしい。もう少し考えてから行動すべきだった。
そして朧気だった記憶から徐々にここに来た経緯を思い出していく。そうだ、突然ミナトさんに首元を殴られて……
「――!?」
意識した途端、首元に痛みが現れる。それに伴いほかの場所も痛んでくる。乱雑に運ばれたのだろうか。
そういえば、ハルも一緒の馬車にいたはずだ。彼女はどこにいるのか。
「くそっ、どうなってんだ」
「…………知りたいですかな?」
突然、目の前に男性の人影が現れる。鉄格子のこちら側に。
俺は少しびっくりしたが、すぐに落ち着きを取り戻し、問いかける。
「お前は誰だ?」
「あらあら、いきなりそんな口の利き方だなんて、ちょっと失礼なんじゃない?」
もう一人下からヌルッと現れた。今度は女性だ。突然の事態に頭が付いていけない。
「まぁまぁ、多分彼も無理やりここに連れてこられたんじゃないのか」
「そうなんだろうねー」
「でもまだここに連れてこられる人がいるとは」
「実は彼もあれの可能性があるんじゃない?」
「否定はできない。かといって断定できる材料があるわけでもない。難しいところだね」
今の会話の中で何か感じるものがあるが何かはわからない。完全に置いてけぼりにされている。二人の会話はどんどん盛り上がっている。
「あのー、話してもいいですか?」
「あ、完全に忘れてたわ。それで、どうしたの?」
「あなたたちは誰ですか?」
反感を買わないように丁寧に言う。
「私はアオイよ」
「僕はハルトだよ。僕たちはゴーストなんだよ。まぁ、覚えてくれると嬉しいかな」
「ゴーストって事はもうすでに二人は……」
「この世界で死んだね。ごく当たり前なことだけど、どうしたの?」
先ほどと同じ何かを感じる。でも、また何かはわからない。
「いや、急に下から出てきたし、半透明だし、浮いてるし、いろいろツッコミどころ多くて。ちなみにこの世界ではゴーストは普通にいるのか?」
2人は怪訝そうな表情をする。なぜそんな顔をするのか、俺には心当たりがない。
「まあいるのはいるけど……私たちみたいな理性的なのは他にはいないと思うわよ」
「へぇー、二人は特別なんだ」
「まぁ、特別っちゃ特別だけど……」
空気が重くなる。地雷を踏んでしまったらしい。
話を変えようとしたその時、廊下の方から反響した足音と声が響く。
「あ、来ちゃったか」
「撤収しますかね。あとイツキ君、ここで私たちと会ってしゃべっていたことはくれぐれも秘密で。後々面倒なことになりますから」
「ああ、わかったよ」
その答えを聞くとハルトは満足げに微笑み、二人は地面に吸い込まれるように消えていく。
結局あの二人は何も教えてくれなかった。何だったんだろうか。俺の頭には疑問が残っている。
思考を巡らせ下を向いている時、前方から声が聞こえた。
「声がすると思ってきてみましたが、気が付いていたんですね」
顔を上げると、鉄格子の向こうには港の姿があった。後ろには鎧を着て武装した護衛のように人が二人いる。
「これは何のつもりだ?」
俺は体の後ろでつけられた手錠や体に巻かれた鎖、足を固定している鉄のような素材でできたブーツなどを顔で示し、そう問いかける。
「何と言われましても。ちょっとだけ尋問、もといおしゃべり会をするだけですよ」
そう言いながらミナトは鉄格子を開け、中に入ってくる。それに続き護衛の人たちも入ってくる。
「大丈夫ですよ。正直に洗いざらい吐いてくれれば手荒な真似は致しません」
そう言いながらいつの間にかナイフを持っている。俺に見せつけるように。
これはあれだな、正直に言ったら嘘つけとか言われて問答無用で指とか落とされそうだな。俺、痛いのは嫌なんだけど。
何故かこんな状況でも落ち着いている俺がいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます