10話 探索
上を見ると遠い天井、廊下には赤い絨毯、窓側には均等に置かれた花瓶、そこに生けられた様々な色の花。明らかに貴族かその類の家、もとい屋敷である。
さて、ここからどうしようか、と悩む、何か忘れているような……。
「あ、ハル」
そういえばハルはどこに行ったんだろう。完全に忘れていた。
地下牢にいなかったからこの屋敷の大量にある部屋のどこかにいるのだろうか。
ひとつひとつ当たっていくのは非常に効率が悪い。かといって大声を出して探すわけにもいかない。ここがどんな屋敷なのかわからない以上、この屋敷の人には見つからないほうがいい。
しょうがない。地道に探しますか。
ハルがどんな状況なのかわからないのにもかかわらず、こんな状況でもやはりイツキは冷静であった。まるで、無事で当然かというように。
そしてあれは歩きだす。ひとつひとつ部屋を開けてハルを探すという仕事をするために。
終わりの見えない廊下、どこまでも続いているように見える。それほど大きい建物なのだろう。
ふと、俺は窓から外を見る。そこから、ある事実を知ることができた。それは、
「ここって多分、王宮だよな」
この屋敷がこの国の中心に存在している事だった。
俺は淡々と、ドアを開け、中を確認し、閉じる、という作業を繰り返す。もし仮にクローゼットとかに押し込まれているのなら、物音がするだろうという勝手な予想を立ててめんどくさい作業を省いていた。だっていちいち全部の部屋の押し入れとか開けてたらキリないじゃん。
でも、どれだけたくさんドアを開けていても一向にハルの姿は現れない。しかも、何の面白みもない。
ほとんどがただの客室、トイレなど、知ったら消されてしまうような代物は何ひとつ見つからなかった。
そして俺はまた部屋の前に立つ。これで何個目だろう。本当に疲れてきた。これまでこんなに扉を開けたことなど無い。
そして俺はドアを開ける。その時、牢屋から廊下につながっているドアを開けた時と同じバキッという音がした。
この屋敷のドアって少し整備不良が多すぎないだろうか。多分王宮だろここ。もっとしっかりした方がいいと思うぞ。
その部屋は書庫だった。書庫なんてもう何度も目にしている。しかし、この書庫は他の書庫と何か雰囲気が違っていた。
この書庫は廊下の時には想像できないほど不気味で暗く、壁沿いに本棚が置かれ、古びた本が所狭しと並んでいた。背表紙には死とか呪とか不穏な言葉が並んでいる。
ていうかなぜ日本語?読めるのは何か関係あるのか?それとも文字の形が似ているだけで意味自体は全くの別物とか?また一つ謎が増えた。
俺はその部屋を後にする。少し気味悪かったので早くこの部屋から出たかった。結局何の部屋なのかわからなかった。
そしてそれからは何もなく、ドアを開けるのに本格的に飽きてきた。そして、こんなに探しても見つからないハルに大変苛立った。
そして俺は隠密行動というのをしなくなっていた。これだけ歩いても誰にも会わないし、警戒心というものを失くしていた。
そのため、ドアの開け方も雑になっていった。見つからないイライラをぶつけるように思いっきりドアを開く。そして壁とドアがぶつかるバーンという音を響かせる。あ、これ、めっちゃ楽しい。
そういう遊びを続ける事数十分、ついにその時は訪れた。
俺は再びドアの前に立つ。中から物音が聞こえる。人の気配がする。
そして俺は開け放つ。バーンという先ほどと同じ、いや、それ以上の音を響かせドアは止まる。
「キャー!!」
次の瞬間、悲鳴とともに顔面に何かがぶつかる。グラっと体が揺れる。一瞬何が起こったか分からなくなる。
「来るな―! 来るな―!」
叫び声が聞こえる。俺はハルがなぜそんなに叫ぶのかわからなかった。俺は視界が安定していない状態だったが、咄嗟に部屋の中に入り扉を閉める。
視界が落ち着いたころ、俺は部屋の中の少女を視認する。
……え?
「誰?」
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