6話 お礼

 俺たちを馬車の近くに連れてきた鎧の人はなにやら馬車の中の人としゃべているようだ。中にいるのがアルベガだろうか。俺は静かに待ち続ける。


 にしても結局この力はよく解らない。転移によって授けられた力的なもの?もしくはこの異世界にある何かが俺の体に影響を与えている?


 考え込んでいたところ、とんとんと肩をたたかれる。顔をあげるとハルが俺に話しかけていた。


「あの人が呼んでるよ」


「え?」


「考え事の邪魔をして申し訳ございません。アルベガ様が直接話したいと仰っているのでこちらに来てもらってもよろしいですか」


 俺は首を縦に振り、馬車の入り口にハルとともに近づく。といっても入り口にはドアがあり、中は見えないのだが。


 足音で分かったのか、入り口の前に着いたと同時に話しかけられる。


「お主が我らを助けてくれたものだな。感謝する」


「感謝の気持ちを伝えるなら顔ぐらい見せたほうがいいと思うぞ」


 俺は未だ姿を現さない相手にそう言ってやった。言った後に少し失礼だったかと思ったが、まあいっかと考えないようにした。


 何か騒がしい。周りの鎧の人が騒然としている。


 対して馬車の中にいるアルベガは少し黙った後、それはできないと俺の意見を一蹴した。


「悪いがあまり顔を見られるわけにはいかない。無礼で済まない」


「そっか、いきなり悪い事を聞いたな」


「いや、お主の言うことはもっともだ。気に病む必要はない」


 そんな会話をしている後ろで、まだざわついている鎧の人たちがいた。






 少し話した後、アルベガが切り出してきた。


「今回、もしお主の力がなければ、我らに甚大な被害が出ていた可能性は否定できない。よって、何か礼をしたいのだが。お主は何か要望はあるか?」


「じゃあ、ここから一番近くにある町とか国ってどこにある」


「それならここを真っ直ぐ行けば近くにアカソという国がある」


「どうも、じゃ、またどこかで」


 乗せてもらうことも考えたが、じゃあ乗せてくれなど言えるわけもないので、俺は自らの足で行くことに決めた。


「ちょっと待ってくれ。その国に行きたいのか。我らもその国に向かっている途中だったのだ。どうせなら馬車に乗っていくがいい。アカソまで送っていこうじゃないか」


 こっちが自分の足で行くことを決意したとき、向こうから乗らないかと誘われた。ラッキー。


 断る理由もないので、俺はその提案に乗った。


「そういうことなら頼もうかな。もう一人乗ることになるが大丈夫か?」


「うん?連れでもいるのか?なるほど、だから一つ足音が多いのか。構わん、後ろにもう一つ入り口がある。そこから中に入ってくれ」


「入って大丈夫なのか?」


「この馬車には二つの部屋がある。今我がいる部屋が本来人を招き入れるはずの場所で、後ろが道具などを置いておく倉庫になっている」


「顔を見せられないから倉庫に行けって言う解釈でいいか?」


「すまぬがそういうことになる。もちろん椅子やお茶などは用意しよう」


「わかった。それだけあれば十分だ」


 そう言って俺はハルとともに馬車の後ろの方へと向かう。こうしてみるとでかいなこの馬車。


 そして扉らしきところを見つける。ドアノブがある。開けて中を見てみると本当にただの倉庫らしい。よく解らない木箱がたくさん積まれているが、意外とゆったりできるスペースは存在していた。後ろからハルも中に入ってくる。


「そういえば、ハルはさっきから全然しゃべってないがどうかしたのか?」


「え、いや、だって、アルベガって……」


 何かを言おうとしたとき、執事のように綺麗な燕尾服を纏った人も入ってくる。それに気づいたハルは口を紡ぐ。いったい何を言おうとしたのか。あとで聞けばいいか。


 そして、その執事らしき人物の後ろからさらに鎧の人が入ってきて、いつの間にか簡単な机と椅子ができていた。


 俺はそれを見てポカンとしていた。その横でハルは少しそわそわしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る