4話 助け船

 少し走ると遠くから喧騒が聞こえる。刃がぶつかり合っているような激しい音、時折爆発音が響く。


「ねぇ、何をやってるのかしら」


「さぁ。少し様子を見てみるか」


 そう言い、俺はその喧騒の方へと近づいていく。


 音が近くなってきた。俺は立ち止まり、ハルを降ろす。そしてゆっくりとその音へと近づく。


 もう目の前で聞こえるほど近くまで来たとき、こっそりと木陰から顔を出し、どういう状況なのかを確かめた。


 キラキラした明らかに豪華な馬車。その周りで剣で切りあっている人がいる。


 銀の鎧を纏っている人たちと先ほど俺が倒した奴らと同じ様な身なりをした人たちがいる。


 鎧の人たちはみな、馬車を背に戦っている。まるで馬車を守る様に。


 しかし押されている。これは馬車が襲われるのも時間の問題だな。助けるか否か。少し考える。


 ここで恩を売れば、あの馬車に乗って近くの町に行けるかもしれない。しかもあんなに豪華な馬車だ。結構位の高い人だろう。相手に借りを作っておけば後々助けてもらうこともできるかもしれない。


 まぁさっき襲ってきたやつの仲間の味方をするのも嫌だしな。


「ハルさんはここで隠れてくれ」


「どうするの?」


「まぁ見ててくれ」


 俺はハルにフッと軽く笑って見せ、そのまま戦場へと飛び出し、姿を現した。






 鎧の人たちは俺の姿に気付き俺に視線を送る。それに気づいた盗賊たちもいったん戦闘をやめ相手と距離を取り、俺をじっと見つめる。何人かは目を見開いている。そんなに驚かれるとは思ってなかった。


「……なんだお前は」


 明らかに一人だけ体格や身につけているものが違う。刺青のようなものも見える。盗賊のリーダーっぽい人だ。そいつが話しかけてくる。なぜか先ほどとは違う緊張感が流れている。


「あなたは誰ですか?」


 俺はリーダー(仮)にそう話しかける。一応どっちが悪いのかは判断しておかないとな。


「いきなり出てきてなんなんだ?」


「あなたは誰ですか、と聞いているんですが?」


「……」


 ほかの人はみな困惑している。なぜか知らない。でも、どうせならこの状況をうまく使う。俺は得体のしれないモノという体でこの輪の中へ入る。


「……俺は盗賊だ」


 少しの静寂の後、リーダー(仮)がそう返す。ですよね。大体わかってましたけど。ていうか素直に教えてくれるんだ。そっちの方がありがたいけど。


 その答えを聞いてすぐに鎧の人に問いかける。


「この世界で人を襲って物を盗んだりするのはいいんですか?」


「いや、だめですけど……」


 やっぱりこの世界にも一応それなりの法律やその類いのものはあるんだろう。安心した。


「で、助けたほうがいい感じですか?」


「え、まぁ、助けてもらえたらありがたいんですけど……」


 その答えを聞いてすぐに俺は動き出す。


 一番近くに立っていた盗賊の男を蹴り飛ばした後、瞬時に方向転換、そうして連続で盗賊を蹴り飛ばしていく。


 相手は俺の動きについていけないのか動かない。いや、動けない。剣を構える前に体に蹴りが入りすぐに意識が飛んでいるようだ。


 そしてあっという間に最後の一人になったリーダー(仮)。


 そいつも片付けようと走るが、剣を構えてくる。


 結構な速さで走り回っているのによく構えられたなと感心しつつ、その剣を右足で蹴り飛ばす。そして、その勢いのまま回転しながら左足のかかとを脇腹に入れる。


 うめき声を出しながら飛んでいき、転がっていった。木にぶつかって止まり、そのまま立ち上がらなかった。

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