第15話
翌日。
<首元> <マーク> <x>
違う。
<刺青> <知らないうちに> <病気>
三限目数学の授業中、俺は机の下でシロタ先生にバレないよう検索窓に様々な言葉を入れ、組み合わせて検索していくが、特に目ぼしい記事は見当たらない。
昨日の皆の証言を辿り、何かヒントになるものはないかと目をつぶりじっと考える。
『私は一か月前ぐらいからで、他の女の子は文化祭終わった後ぐらいらしい』
いつもとは違う落ち着いた様子で話すサリを思い出す。
文化祭、シン、怪我。そういえばシンの手は完治したのだろうか。利き手だったから、勉強に支障が出て……。
「──⁉」
突然鼓動が高鳴り、頭の中で記憶の線と線が繋がった音がした。その記憶が消えてしまわない内に、検索窓に素早く単語を打ち込む。
<血> <感染症> <xマーク>
検索結果のページを素早く目で追いながらスクロールしページを進めていく度、徐々に鼓動が治まっていく。が、そんなわけないよな。と心で呟きながらスマホを閉じようとしたとき、シロタ先生のだみ声が聞こえ、血の気がさーっと引いていくのが分かった。
「ちょっと君。ほら、君だよ君」
バレた。観念しようと、スマホを机の引き出しに押し込み、顔を上げる。
「全然授業に集中しないでスマホばっかり触って、ちょっと前に来なさい」
しかし、教科書通りのバーコードはげ頭はミカの方を向いており、注意されたミカは不貞腐れるように上履きを床に擦らせ、怒りを音で体現しながら教壇へ向かった。着くや否や、先生はふん、と鼻から勢いよく息を吐き黒板に書かれた問題を解くよう顎で指示をした。
「シロタ先生恒例、晒の刑でたー」
席替えをして俺の一つ後ろの席になったヒロユキから、いつも通りの心無い言葉が飛んでくる。証明問題だったが、正直問題文を見ても意味不明だった。いつも定期テストの点数が俺と同じぐらいのヒロユキでも絶対無理だろうと思ったし、ましてや学年最下位を常連のミカが、こんな問題解けるはずないと思った。
「無理なら無理でいいんだよ」というシロタ先生の嫌味な言い方はどこかヒロユキに似ていた。ミカは問題を見ながら黒板の前でしばらく立ち尽くした後、悠然にチョークを手に持ち、何かを書き始めた。
f(x)=2x 3-3(a+1)x 2+6ax-2a とおく。 f'(x)=6x 2-6(a+1)x+6a=6(x-1)(x-a) 3次方程式 2x 3-3(a+1)x 2+6ax-2a=0 が 異なる3つの実数解をもつ条件は a≠1 かつ f(1)f(a)<0 である。 f(1)f(a)<0 ⇔ (a-1)・(-a 3+3a 2-2a)<0 ⇔ a(a-1) 2(a-2)>0 ⇔ a(a-2)>0 (∵ a≠1 より、(a-1) 2>0) ⇔ a<0,2<a ……
正直、出鱈目だと思った。それはきっと俺だけではなく、クラス全員がそう思ったはずだ。なのに周りを見渡すと、皆のミカを見る目は何故か平然としている。
「別解も必要なら書きますけど」
「……え」
俺はその板書された数列が正解なのかどうかは分からなかった。が、シロタ先生の困り果てた表情がその成否を体現していた。
「も、もう結構です……」
授業が終わり、すぐにヒロユキの方を向いた。
「なぁ、さっきの証明問題分かんなかったよな」
「馬鹿にされちゃぁ困るなぁ」とヒロユキは自慢げな顔で、ミカと同じ答えがびっしりと書かれたノートを俺に見せてきた。
「どうせ、ミカの答え写しただけだろ」
「ちげーよ、何かわかんねぇけど、最近めっちゃ頭冴えてんだよ」
ふーん。ま、どっちでもいいけどさ、と軽く流した。
結局その日は分からないことが、全て分からないまま終わった。子供のころからずっとそんな日の積み重ねで生きてきたけれど、この日だけはいつもとは違う違和感を感じていた。
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