第51話 偽物たち

「大丈夫。田中さんもちょっと顔は怖いかもだけど、優しいお姉さんだから……ね」

「はい、礼香……さん……」


 ――ちゃんと言うことを聞いていれば……だけどね。


 うつむき、従順にうなずくハルカ。

 その姿に満足し、私――遠野麗子がほくそ笑んだその時、


「それにしても、話には聞いていましたけれど、さすがの手際ですね遠野麗子さん」


 予想外の人物の、想定外の言葉に私はぎょっとする。


「何を言っているのかしら、田中さん? 手際って……それに私の名前は麗子じゃなくて来栖礼香ですよ?」


 ――信じられない。この女、何を言っている。っていうか、何でコイツ私の名前を知ってやがる!? 


「もうお芝居は十分です。ねえ、地上げ屋の遠野麗子さん?」

「ちょ、アンタ何度も……地上げ屋? 一体何の話をしてんのよ!?」


 おかしい、おかしい、おかしい。この女は何を言っている?

 田中だって同じ穴の狢だ。私に危険が迫れば、コイツだってただじゃ済まない。なのに、コイツは……一体何がどうなって……。


「最初は銀行員である真々田から情報を得たことが始まりだったんですよね」


 だが、私の動揺など気にも留めずに、田中は淡々と語り始める。


「真々田の情報で星空家の経済状況を知ったあなたは、まず自分に借金があって逆らえない人間を使って星空カフェの悪評を広めさせた」

「うそ……真々田さんが……?」

「そうよ、ハルカちゃん。真々田はこの女の手先だった。それに情報開示請求を頼んだ弁護士もね……」

「そ、そんな……じゃあ、あの人は偽物の弁護士さん?」


 信じられないといった表情でハルカは絶句する。


「違うわ。そいつは本物の弁護士だし、真々田も本物の銀行員よ。そういう社会的に真っ当な立場の人間が悪人だって場合もあるのよ……」

「そんなことって……」

「あんた……何を勝手に喋ってんのよ!?」


 それ以前に、田中がどうしてそんなことまで知っている!? こっちの計画にコイツは一切絡んでいないのに……。


「全部最初から仕組まれていたのよ。星空カフェの悪評が広まったのも、犯人から賠償金が取れなかったことも、真々田や弁護士が星空カフェの常連になったのも――全部が全部、星空カフェを陥れるためだったの」

「何をいい加減な! 出鱈目よ。ハルカちゃん聞かないで。この人が言っているのは全部嘘なの!」


 クソ! 大失態だ。何がどうなっている。

 何だこの田中という女は。でもおかしいだろ、この女とは何度か仕事をしたことがある。なのに、これじゃまるで別人……別人? まさか、そんなことが……?


「最初は、星空カフェの土地が目当てだったけど、途中でハルカにターゲットを変えた。いや、そこから弱みを握って両方手に入れるつもりだったのかな。ねえ、そうでしょ? 地上げ屋グループのリーダー、遠野麗子さん?」


 ラウンジに来た時は、前に仕事をした田中と同一人物だと疑わなかった。声色だって、しゃべり方だって……なのに。

  今の目の前の女が浮かべている顔は、先程までとは全くの別人のそれに変わっていた……。


 人は、、ここまで他人を騙すことができるものなのか!?

 

「――――お前は、誰だ? お前はいったい何なんだ!?」


 その声に、それまで田中と呼ばれていた女が、最高に不敵な笑みを浮かべた。


「お前はいったい何なんだ……と聞かれたら、この舞台は最後の大詰め、ここが貴女の年貢の納め時――」


 ばっと、スーツを脱ぎ捨てる田中。

 そして、そこから姿を現したのは、女性警察官に扮した、まだ幼さの残る黒髪の女。


「突撃アイドルポリス。アイドル舐めたらアカンぜよっ! 遠野麗子、あんたの悪事は、このエターナルスターの女王、黒帳美夜様がゴロっと丸ごとお見通しよッ!」

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