第33話 ハンバーガーの悪夢

「長かった。全てのカレプリアイドルを勧誘するという、私の使命が今夜ついに完遂されるのよ……というわけで、さあ、景気づけだぜい!」


 と、小声で叫びながら、私は目の前のトレーに乗ったビッグサイズのハンバーガーセットに視線を落とす。


 今、私が居るのはエターナルスター学園最寄りの駅前のハンバーガーチェーン店。その名もバーガークイーン!


 いやー、実は前世の頃からハンバーガーが大好きなんだよね。

 美夜様に生まれ変わってからは、体重管理とかでなかなか食べられなくって、しかも最近じゃファンの目もあるから余計ね……。

 好きなものを我慢するのって、ホント辛い。

 なので、今日のように大事なライブを控えている時とかだけ、こうやって変装してお忍びでやって来るのがルーティーンになっているのだ。


「今日のライブでハルカちゃんにカッコいい姿を見せるために、ここは大好物で栄養付けないとね……というわけで、いっただっきまーーーす」


 もう我慢できないと、包み紙をいそいそと外し、名物キングクイーンバーガーを頬張る。

 

「ふっふゃーーーい! ほれはよほれ、ふぁいこーーー!(うっまーーーい! これだよこれ、さいこーーー!)」


 キングクイーンバーガーってなんだよ、キングなの? クイーンなの? とかいうツッコミはもう必要ない。だって、すっごく美味しいから!


 もっしゃもっしゃと、一つ目のバーガーをペロリ平らげると、私は休む間もなく二つ目のキングクイーンバーガーに手を伸ばす。


「連続キングクイーンバーガーいっただっきまーーーす。ぱくっ!」


 と、私が大口開けてハンバーガーを頬張った、そんな最悪のタイミングで、


「え、黒帳……美夜ちゃん…………?」

「ふぇ…………」


 唐突に名前を呼ばれる。

 何が起こったか分からずに完全に思考が停止する。

 声の主は隣のテーブルを片付けていた店員さん。

 その店員の顔を見て、私はさらなる衝撃に全身を貫かれる。

 嘘だ。こんな、こんな最悪な偶然があるのか……?


「ふぉのへんいんはん! ふひんほうのほひほらはふふぁひゃんひゃーーーーん!(この店員さん。主人公の星空ハルカちゃんじゃーーーん!)」


 サラサラロングのピンク髪。頭に乗ったでっかいリボン。

 それに何よりも、満天の星々を閉じ込めたような、希望に満ちた瞳の輝き。


 ――間違いない。この子はカレイドプリンセスの主人公、星空ハルカちゃんだ。


 終わった。全てが終わった。

 憧れてもらうどころか、馬鹿デカい口を開けて、幸せそうにキングサイズのハンバーガ頬張ってるところを見られるなんて。


「あ、あの……黒帳美夜ちゃん……ですよね?」

「イエ、チガイマス。ワタシハ、クロトバリミヤ、デハアリマセンヨ」


 口いっぱいのハンバーガーを慌てて飲み込んだ私は、そそそっと顔を横に逸らして、ペッパーのモノマネで誤魔化そうとする。が――。


「ああああ、やっぱりポスターと同じ顔……」

「へ? ポスター?」


 ハルカちゃん言葉に私の背後の壁を確認する。


「何でこんなところに私のポスター張ってあるのぉぉ!?」

 

 どうやら、誤魔化そうと逸らした私の顔の角度と、後ろの壁に貼ってあった私のポスターの顔の角度が完全に一致していたらしい。

 それがハルカちゃんに私が本物の黒帳美夜だと確信させてしまったようだ。


「って今、私のポスターって……やっぱり間違いない。本物の黒帳美夜ちゃ――」

「いいえーーーー、人違いですぅぅぅぅぅ!」


 手に持った食べかけのハンバーガーを一気に口へ押し込み、ダッシュで席を離れる。

 恥も外聞も脱ぎ捨て、店の階段を駆け下り脱兎のごとくその場から逃げ去る。


 やっちまったー。最悪だ。まさかあんな失態を、主人公である星空ハルカちゃんに見られてしまうなんて!

 くううう、今日のライブでハルカちゃんに格好いいところ見せなきゃいけないのに……何でよりにもよってファーストコンタクトがハンバーガー頬張ってるシーンになっちゃうのよ!


「待って下さーーーーーい! 美夜ちゃーーーん!」

「ってえええええ、何で追ってくるのよぉぉぉ!!?」


 無事逃げ切ったと思いきや、何故かハルカちゃんがダッシュで追いかけてくる。しかも早い!

 あああ、そうだった。ハルカちゃんって星空が綺麗な田舎育ち、運動神経お化けアイドルだったっけー。

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