第32話 順風満帆アイドル人生
「「「はぁ……す・て・き」」」
私が何をしても深読みして無駄に褒めちぎってくれる後輩アイドル達に、私が心の鼻の下を伸ばしていると、
「あー美夜ちゃんったら、下級生に色目使って、私という者がありながら酷いんだ~」
ひかりちゃんが私の腕を取り強引に腕組みしてくる。
そのまま小動物のように私の肩に頭をぐりぐり甘えてくるひかりちゃん。
やば、ひかりちゃんあたおか。
(注)ひかりちゃんが頭おかしくなりそうなくらい可愛いの略。
出逢ってからもう七年の付き合いになるはずだけど、ひかりちゃんが年々可愛く感じる。
心臓に悪いぜ。でも大好き!
「アイドルたるもの、ファンあってこそだからね」
「さすが、国民的スター。史上最年少スタープリマは言うことが違うね」
「そうやって、すぐからかうんだから」
そう今や私、黒帳美夜は押しも押されぬ国民的トップスター。
中学二年生でそりゃ大袈裟じゃないか、と思うかも知れないけど、だってここカレプリの世界だからね。
基本的には、黒岩宮子が生きていた日本とほぼ変わりがない。
街並みも、交通機関も、世界情勢も……。
歴史だってそうだ。信長はきっちり本能寺でBANされてるし、ペリーも浦賀で『開国して下さいYO!』とか言っちゃってる。
でも、ただ一点だけ、私の暮らしていた日本と明らかに違う点。
――それが芸能界。特にアイドル業界だった。
「どうしたの、美夜ちゃん。考えごと?」
「ううん。ただ、考えれば考えるほど、不思議で素敵な世界だと思ってね」
「素敵?」
「そ、テレビをつければ、常に何かしらアイドルの番組が放送されてて、本屋に行けば、アイドル雑誌だけで毎月数十冊が刊行されている。エターナルスター学園以外にも《アイドル科》設置している中学、高校が全国的にごまんと存在してるしね」
そんな私の言葉にひかりちゃんが、ほえ?っと首をかしげる。
「それって、当たり前じゃない?」
「ふふ、そうね。当たり前……だね」
当り前なんかじゃないんだよ全然。
少なくとも、私が以前いた世界の常識からは考えられない。
特に顕著なのがアイドルに関する科学技術だけが異常に発展していること。
その最たるものが《カレイドシステム》――現実拡張空間でアイドルステージを行うことができる超技術。
そう、女児向けアイドルアニメでよくあるアレです。
衣装が印刷してあるカードをね、自動改札機を可愛くしたみたいな機械に入れると、カードに描かれた衣装たちが、光に包まれた全裸のアイドル達に次々と装着されていく。
その光景は、まるで魔法少女の変身シーン。
そしてそのままステージでライブができるという、トンデモ科学技術!
カレイドシステムで初めてライブした時、今までで一番『ああ、私カレプリの世界に来たんだな』って実感できた。
あの時の、快感と幸福感は忘れられない。
「美夜ちゃん、さっきから何をそんなにニヤけてるの?」
「いや、幸せだなぁって思って」
「えー美夜ちゃん、何だかおばあちゃんみたい」
おばあちゃんって……いやまあ、私まだアラフォーだよ……あれ? もうアラフィフか?
とにかく今の私の人生は、前世の真っ暗な人生とはえらい違いだった。
憧れのアイドルにもなれて、愛して止まないアイドル達に囲まれて。
黒帳美夜として生きるのは、相変わらず慣れないし、努力は欠かせないし、申し訳ない気持ちでいっぱいだったりはするけれど……。
でも、本当に今私は人生を楽しんでいる。
そう心から思える日々だった。
「美夜ちゃんまた笑ってる。そんな調子で今日のライブは大丈夫?」
「もちろん、問題ないわ。だって今日は特別なライブだからね」
何しろ今日のライブは転生してからの集大成。
私がずっと目標にしてきた、
『カレプリアイドルを全員アイドル界に勧誘する』
という目標が、今日のライブでついに完了するのだから。
「だよね。何しろ、黒帳美夜初の全国ツアーの最終日だもんね」
「ふふ、まぁね。世界中の視線をくぎ付けにして魅せるわ!」
「いやーん、美夜ちゃんかっこいいー」
美夜様が言いそうな台詞を、美夜様風に言って誤魔化す。
けど私が言った〝特別なステージ〟ってのは本当はツアー最終日という意味じゃない。
だって、今日のライブはそれよりも、もっと価値のあるライブだから。
今日の夜に行われる私のライブに、待ちに待ったあのアイドルがやって来るはずなのだから。
そのアイドルの名は、星空ハルカちゃん。
そう彼女こそ、
その天真爛漫なカリスマ性と、圧倒的なアイドル力で、未経験でありながら瞬く間にトップスターへと駆けあがったシンデレラガール。
主人公オブ主人公。スタープリマ・オブ・スタープリマ!
そんなハルカちゃんも、美夜様に憧れてエターナルスター学園の扉を叩いたカレプリアイドルの一人。
そして、ハルカちゃんがアイドルを目指すきっかけとなった美夜様のライブこそ、今夜行われる私のライブなのだった。
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