第31話 スタープリマ、黒帳美夜
「きゃー、美夜様よ」
「うそ、本当だ……。わたし入学式の挨拶以来、美夜様を生で見るの初めて……」
「すごい綺麗……さすが我がエターナルスター学園の女王……」
「史上最速、十三才でスタープリマに選ばれてからステージでは一度も負けなし……我が校のアイドル科エースにして国民的アイドル――黒帳美夜様」
「はぁ……す・て・き」
エターナルスター学園の薔薇の小道を歩きながら、私はファンたちに優美な笑顔を振りまきながら歩く。
はぁぁぁぁ、あの子もこの子もみんな可愛いアイドル達。
この快感はクセになる。
「これがカレプリの世界を守った私に対する神様からのご褒美なのかしら……」
ルンルン気分を隠しながら、私は黒帳美夜として颯爽と歩く。
時の流れは早いもので、冴えないアラサーOL黒岩宮子から、黒帳美夜に転生してから七年。
私がエターナルスター学園に入学してから、すでに一年が過ぎていた。
そして、この一年の私のアイドルライフは、充実過ぎると言っても過言ではなかった。
前世のトラウマから、私って基本的に自分がダメダメなダメ人間だと思っていたんだけど……どうやらその考えは少し違っていたらしい。
――その事実に気付いたのは一年前、エターナルスター学園の入学式だった。
□■
「――では、新入生代表の挨拶は黒帳美夜さん、貴女にお願いしますね」
「へ?」
入学式の直前、一人で学園長室へと向かった私に掛けられた意外過ぎる一言。
何の冗談かと思ったが、学園長は至極真面目な顔で、冗談を言っているようには見えなかった。
エターナルスター学園、学園長。その名も
その正体は、十数年前に電撃解散してしまった伝説のアイドルユニット、カレイドステラの
――うおああ、現役離れてもめっちゃんこ美人だぁぁ。
肩まで伸びた栗色のウェーブの髪。
クッキリと大人っぽく整った目鼻立ちは、十代のアイドルとは比べ物にならない理知的な美しさを魅せてくれる。
ちなみに本人は生徒たちに自分の正体を隠しているつもりなのだが、実は全生徒が学園長の正体を知っていたりする。
みんな、学園長のために気付いていないふりをしてあげているというオチ。
仕事できるし、綺麗なのに、ちょっと抜けてるところもまた魅力的なんだよなぁ。
「黒帳さん? 聞いていますか?」
「あ、いや、もちろん聞いてます!」
怒った顔も素敵だ。もっと叱られたい気持ちにさせてくれるぜ!
「でも、私が新入生代表挨拶って何かの間違いじゃ? それって入学試験主席の人がやるやつですよね? よね?」
黒帳美夜を演じることも忘れて慌てふためく私。
「間違いではないですよ、黒帳さん。貴女は間違いなくトップの成績で試験を突破したのですから」
「え、マジで?」
あ、ビックリし過ぎて『マジ』とか言っちゃったよ。
美夜様は、そんなん言わない、気を付けよう。……字余り。
「うふふ、大マジです。確かに、歌唱力は天乃まりあさん、ダンスは日野ひかりさん、演技は立華クレアさんが首位。黒帳さんはそれぞれ二番目の成績でした」
おお、ダンスで一番だなんて、ひかりちゃんスゴイ。
いや、まりあちゃんとクレアちゃんも凄いけど、あの二人は元がもとだからね。
「ですが、それぞれ二番とはいえ総合得点で実技は文句なしのトップ。筆記試験もほぼ満点の好成績。そして──」
学園長は、ふふっとひと笑いしてから言葉を続ける。
「貴女は我が校の歴史上初、入学試験のステージにおいてプリマアピールを成功させた。率直に言って……入試成績、歴代最高得点ですよ」
「…………うっそーん」
□■
──そんな出来事があったのが今から一年前。
その時初めて気付いたんだよね。
私の入試試験のステージで審査員がみんな呆けた顔をしていたのは、私のステージが酷かったからじゃなくって、受験生離れしたパフォーマンスだったらしいってことに。
どうやら、小学生時代に多くのカレプリアイドル達との戦いを乗り越えた私は、いつの間にやら本物の美夜には及ばないものの、アイドルとしてトップクラスの実力が身についていたらしいのだ。
そのお陰が、入学後のアイドル生活は順風満帆。
入学早々に行われた『春の新人戦』では新入生歴代最高得点を弾き出したし、
夏の『ドキドキ☆アイドルだらけの水泳大会』、秋の『チキチキ☆アイドルだらけの運動会』においても学年MVPを獲得。
一年生ながらに、全国ツアーはチケット即完売の大盛況。
更には、MHKの朝の連続テレビラノベにおいて、ヒロイン役が決定。
私は、エターナルスター学園入学から、たったの一年で、瞬く間に国民のトップスタァへと駆けあがったのだ。
そして、先に行われた『エターナルスター☆冬のクリスマスライブ』で、ついに私は学園の女王として君臨していた
薫子先輩は私に「エターナルスターの柱になれ」という言葉を残して卒業。
後を任された私は、薫子先輩からスタープリマの座を引き継ぎ、名実ともにエターナルスター学園の女王として君臨することになった。
というのが、この一年で起こったおおよその出来事だ。
と、偉そうに語ってはいるものの、その輝かしい経歴は全て、設定資料集に書いてあった本物の黒帳美夜様の跡を追いかけただけ。
でも、それでも……やっぱり嬉しかった。
何も成し遂げられなかった黒岩宮子が、やっと何かに成れたんだという達成感は、ずっと空っぽだった私の心を満たしてくれるに十分だった。
こうして美夜様と同じ道をたどってきた私、黒帳美夜は現在――。
「きゃ、美夜様が、何か気合を入れてるわ」
「きっと、もうすぐ全国ツアーが始まるからじゃない?」
「あれよ、あれ。朝の連続テレビラノベの主演に決まったからに違いないわ」
「どちらにしても……凛々しい姿だわ……」
「「「はぁ……す・て・き」」」
後輩アイドルちゃん達に尊敬される、大人気トップアイドル、スタープリマ黒帳美夜として絶賛活動中なのだ!
――というわけで、物語はやっとのことでプロローグに合流する。
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