第30話 小学生時代の終わり
そして時は春。
黒帳美夜へと生まれ変わったあの日から、六年の月日が流れた。
これから始まるのは、前世からの憧れ、エターナルスター学園の入学式。
でもその前に、私には果たすべき約束があった。
焦燥と期待を胸に、学園の中央部に位置する薔薇の庭園で、その時を待つ。
そして──
「美夜ちゃん」
「ひかり!」
私の姿を見つけると、周囲の視線も気にせずに胸に飛び込んでくるひかりちゃん。
「ちょ、こら、勢い強いって、あ、ちょ、くすぐったいって!」
「制服似合ってるよ美夜ちゃん。すんすん。はぁぁぁ、美夜ちゃん今日も存在してくれてありがとう!」
私の胸に顔を
勢い余って、右手が私のスカートに入り込んで下着に触れているけど、きっと偶然だろう。
「待ってたよ、ひかり。エターナルスター学園入学おめでとう」
「美夜ちゃんこそ! これで、これからもずっと、ずっと、ず~~~~っと、末永く一緒だね、美夜ちゃん」
ひかりちゃんがエターナルスター学園に合格したことは当然知っていた。
でも、こうして学園の制服に身を包んだひかりちゃんを目の当たりにすると、偽物の私が本当にここまで来れたんだと実感できて、涙がこぼれそうになる。
でも、今の私は黒帳美夜。これくらいでぼろ泣きしていたら、キャラ崩壊してしまう。ちゃんとこらえないと。
ただ、原作のひかりちゃんは、甘えん坊ではなかった気がするけど……誤差の範囲内だよね? ね?
と、私が自分に言い訳をしていると、
「美夜さん、ひかりさん、相変わらず仲がよろしくて、眼福ですわ!」
「まりあ! エターナルスター学園に来てくれたんだね! 凄く嬉しいよ!」
「ええ、もちろん。大切なお友達との約束ですもの。私が違えるはずがありませんわ!」
そこに居たのは長い銀髪の妖精――天乃まりあちゃんだった。
久しぶりに会ったまりあちゃんは、最後に会った時より背も伸びてスラっとお姉さんに見える。
ひかりちゃんほどじゃないけど、胸の方も、こう……丁度良い慎ましやかさで……うん、そそられるよね!
あと、それよりも何よりもやっぱり顔が良い!
究極の美しさで、直視することすら
うんうん、良かった良かった。ひかりちゃん同様、まりあちゃんもアニメ原作と見た目の違いは無いみたいだ。
そんなまりあちゃんは、私たちと再会できた喜びか、ニコニコと満面の笑みで
「両親を説得するのには骨が折れましたし、慣れないダンスや演技のレッスンの連続で疲れていたはずなんですけれど……そんな苦労もお二人の仲睦まじいキャッキャうふふな姿を目にした途端に吹き飛びましたわー」
ニコニコ笑顔というか、にへらーとゆるーい感じに涎が垂れそうになっているまりあちゃん。
きっと受験という緊張の糸が解けてリバウンドが来ているのだろう。
「うん、それはいいんだけど……どうして無言でスマホをこちらに向けてるのかな? 何を撮影しているのかな?」
「もちろん、入学祝いの記念撮影ですわー」
「いや、入学記念撮影にしても、ひかりちゃんが私に抱き付いてるだけの、こんなシーンを何枚も撮影しなくても……というか、まりあ。どうして徐々に姿勢を低くしていくの?」
「それは乙女が魅せる一瞬の輝きを逃さない為ですわ!」
「だから何でそれが、ローアングルを狙うことになるの!?」
なんだろう……。
まりあちゃんも見た目はアニメと変わってないけど、ひかりちゃんと同じで少し性格に……いや、少しじゃなくて大きな違いがあるような……。
ていうかオタクだから分かる、分かっちゃうけど……明らかに百合好き(キマシタワー)特有の言動が……。
いや、今は深く考えるのは止めよう。
そう、今は二人がエターナルスター学園に入学してくれたことを純粋に喜ぼう──。
と、現実逃避して精神を安定させようとした私に、背後から声が掛けられる。
「美夜くん、久しぶりだね」
落ち着いたイケメンハスキーボイス。
この声の持ち主は知っている。間違いない。ていうか、最後に別れてからまだ半年も経ってないしね。
「クレア! ちゃんと来てくれた……ん……だね? ………………え、誰?」
クレアちゃんが来てくれたと思った私は、心の中で尻尾をぶんぶん振りながら、でもそれを必死に隠して黒帳美夜らしく優雅に振り返る。
けれど、その先の人物の姿が予想外過ぎてフリーズしてしまう。
「って、あれ? クレア……ちゃん?」
アニメのクレアちゃんは、男装スタイルの制服を着用していた。
なのに、目の前のクレアちゃんが履いていたのはスカートだった。
「どうかしたのかい? もしかしてスカートが似合ってないかな?」
「いや、そんなことはないんだけど……っていうか、スカート以前の問題でしょ! え、クレアが……ツインテール?」
そう目の前のクレアちゃん──桜塚歌劇団の男役トップスターを目指していた、あの超絶カッコよかったクレアちゃんが……。
なんと可愛らしい金髪ツインテールっ娘に変貌を遂げていたのだ!
そしてよくよく観察してみると、変わっている点は髪型やスカートだけではなかった。
ほんのり香るお化粧や、シャンプーの香り。少し内股で物腰柔らかな立ち居振る舞い。
それは以前のクレアちゃんからは全く感じられなかっら、可愛らしい女の子らしさ。
「あはは、やっぱり似合わないかな? ボクがこんな格好……」
自分でカスタマイズしたであろうフリル付きのスカートぎゅっと握りしめ、クレアちゃんが不安そうな声を漏らす。
「そんなことない! 凄く似合ってる……むしろ可愛すぎてびっくりしたというか。アイドルになる決心つけてくれたんだ……嬉しいわ」
崩壊しかけた黒帳美夜のキャラを、慌てて取り繕う。
そして、それと同時に過去の記憶が一気に蘇る。
記憶のピースが、身体は子供の名探偵やら、捜査協力する天才物理学者よろしく、脳内で一気に組みあがっていく。
私、ずっと勘違いしてたんだ……。
クレアちゃんが言った『ボクも彼女みたいなアイドルになれるかな?』との言葉。
彼女みたいなアイドルって、私はてっきり男装アイドル高峰このえ様のことだと思っていたけど……。
「高田まゆりちゃんを意識しているんだね」
クレアちゃんが私の部屋で隠れて見ていた写真集も、高身長ゴスロリアイドル──高田まゆりちゃんのものだったんだ。
思い返せば会話がかみ合わないことがあった。
考えれば分かりそうなものなのに……思い込みとはおそろしいものである。
「最初は少し驚いたけど……」
可愛らしい女の子姿のクレアちゃんをまじまじと見る。
「やっぱり…………むっちゃ可愛くないですか???」
クレアちゃんが可愛すぎて敬語になってしまった。
ちょっと素で頭抱える可愛さなんですけど。
「うん、クレアちゃんすっごく似合ってるよ!」
「ええと、始めましてですけど、クレアさんのお姿、とてもお似合いだと思いますよ」
ひかりちゃんとまりあちゃんも、私を援護するようにクレアちゃんを褒めちぎる。
ああ、リアルカレプリアイドルが私の目の前でイチャイチャしてる。
眼福や。尊いわ。今風に言うと、てえてえというやつですよ。てえてえ。
「まだ、高田まゆりちゃんみたいにゴスロリを着る勇気は持てなくて、髪もまだウィッグで……でも、いつかボクも彼女みたいなアイドルになりたいとは思っているよ」
そうはにかんで笑うクレアちゃんを見ると、やはりクレアちゃんはクレアちゃんなんだと少し安心する。
「あ、美夜ちゃん。もう行かないと、集合時間過ぎちゃうよ~」
「え、うそ。ほんとだ」
「まぁ、入学式を遅刻なんてしたら一大事ですわ」
「だね。じゃ、急いで行こうか」
パタパタと走り始める三人。
でも、ふと思いついて私は三人を呼び止める。
どうしても今言いたい言葉が浮かんでしまったから。
「みんな、これからよろしく。私たちは、仲間であり、ライバル! これからこのエターナルスター学園で最高のアイドルライフを紡ぎましょう!」
□■
こうして、私――黒帳美夜の怒涛の小学校時代は終わりを告げた。
これから始まるのは、夢にまで見たエターナルスター学園でのアイドル活動。
黒帳美夜として生まれ変わった私の『カレプリのアイドル達を、アイドル界に誘う』という目標も、ほぼほぼ達成されたと言って問題ないだろう。
少し、ほんの少し、私の知っているアイドル達と、〝性格のズレ〟があるような気もするが、細かい差異に違いない。
――ひかりちゃんが二十四時間三百六十五日、私にべったり離れようとしないのも、
――そんな私たちを見て、まりあちゃんが〝うへへ〟と笑いながらカメラを回しているのも、
――クレアちゃんが男装アイドルではなく、女の子らしい自分の可愛いを追求し始めたのも、
彼女たちが、アイドルになってくれない未来と比べたら、些細な違いに過ぎないのだ。
うんわかってる……今は何も言わないで。
人間は誰しも気付きたくない事実や、目を背けたい現実というものを持っているのよ。
──────────────────
『転生して女児向けアイドルアニメの女王になったのに、主人公キャラが猛追してくるんだけど!?』をいつも読んで頂きありがとうございます。
小学生時代がやっと終わりました。
予定ではもっとさくっと終わる予定だったのですが、想定外に長くなってしまいました。
タイトルの〝主人公キャラ〟が一向に出てこないというタイトル詐欺。
反省しています。
『TS百合に俺はなる!』と違って、こちらの作品は書きながら連載しているので、クオリティの維持や展開の調整とか、ホント難しいですね。
バンバン連載している人気作家さんとか、本当にすごいと思います。
反省ばかりですが、もし面白いと思って頂けたら、コメントやフォロー、☆評価して頂けると嬉しいです。
あと、もうすぐ主人公キャラ出ます。。。
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