第29話 一番大事な事忘れてたー
劇団さくらづかの卒業公演は大盛況のうちに終わりを迎えた。
想定とは違ったけれど、無事に最後のスタープリマ、立華クレアちゃんをアイドル界に誘うことにも成功した。
「この六年間……私頑張ったよね……。ね、神様。ね、私」
自室のテーブルに、コーラやらスナック菓子やらを並べて一人打ち上げの準備を終えた私は、誰にも言えない自分の境遇を思い、自分を労う。
「というわけで、小学校時代のノルマ達成おめでとう、私! かんぱーーーーい!!!」
転生してから約六年。
長いようであっという間の道のりだった。
私の脳細胞が記憶する限り、全てのカレプリアイドルの勧誘は無事に終わったと思う。
これで、カレプリの設定にある、小学生時代に美夜様が誘ったアイドルは、無事に全員エターナルスター学園に入学してくれるはずだ。
嗚呼、愛すべきカレイドプリンセスの世界を壊さないように、死に物狂いで黒帳美夜を演じた日々よ──みたいな?
「激動だったなぁ。前世のブラック企業より余程ブラックな小学生時代だったわ」
小学生にして胃に穴が空きかけたからね。
胃薬とは大親友。マジ欠かせない。
「これにてひとまず大きなヤマは乗り越えたよね。後は、エターナルスター学園に入学するまで、少しだけゆっくりさせてもらおう」
転生してからスタイルを気にして絶対食べないようにしてたポテチ、コーラ!
今日は思う存分食べてやる。祭りじゃ、やっほおおおーーーい!
と、その時。
こんこんと扉がノックされる。
「ねえ、美夜ちゃん。ちょっといい?」
「ママ? ん、いいよ」
この自堕落な祭り部屋を見せるのは少し恥ずかしかったけど、今までの頑張りを見ていてくれたママなら、きっと分かってくれると思って返事をする。
「ねえ、美夜ちゃん。演劇が忙しかったみたいだから言わないでおいたんだけど……いいの? 勉強とか、練習とかしなくって?」
「勉強? 練習?」
なんのこっちゃろう?
カレプリのアイドルの勧誘は全員終わったし、小学生の黒帳美夜としてはやるべきことはもう何にもないと思うんだけど……。
「いや、だからね……来週じゃない? エターナルスター学園の入試……あれ? ママの勘違い?」
「来週……? エターナルスター学園……? 入試……?」
……。
…………。
「せ……盛大に忘れてたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
□■
というわけで、盛大に忘れてました。
お騒がせしてすみません。
ですよね、そりゃありますよね。
だって、天下のエターナルスター学園だもん。
入学試験が無いはずがない。
あれだけの大仕事を終えたってのに、つかの間の休息も許されないのかい? どうなんだい神様?
「そりゃ忘れてた私が悪いんだけどさぁ」
自室の机で、試験勉強の追い込みをしながら頭を抱える。
確かアニメの一話で説明してたけど、合格者数約50人に対して、受験者数は約五万人。
倍率はざっくり計算して、毎年一千倍だったかな?
「ていうか、何だよ倍率一千倍って! 雑すぎるでしょ、女児向けアニメの設定!
日本中にどれだけアイドル志望の女の子がいるのよ!?」
でも、まぁ、本当に居るんだろうな。
だってここはカレプリの世界だし。
アイドルに関することだけは、人気も経済効果も科学技術も常識外れなのが通常運転。
まぁ、そういう不都合は気にしないで受け入れるのが、良識ある大きなお友達ってやつですよね。
「って、そんなことはどうでもいいんだよ!」
今はエターナルスター学園の入学試験のことを考えないと!
ひかりちゃんや、まりあちゃん、クレアちゃんは、紛れもなく本物だから試験に落ちるなんてことは無いだろう。
だけど、私は美夜様の身体を借りているだけの
「死ぬ気で試験対策しないと、入学試験にすら落ちるという最悪の未来も十分にあり得るよね……」
せっかくカレプリのアイドルたちを集めたのに、
□■
そんなこんなで、勉強はもちろん、歌、ダンス、演技、面接シミュレーション、メイクから礼儀作法まで死ぬ気で追い込みをかけたラストスパート。
結局最後まで死に物狂いで走り抜けた、小学時代の終わり。
いやー、前世では中学受験なんてしなかったけど、あれプレッシャー半端ないね。
パパとママも応援してくれるんだけど、その応援が真剣であればあるほど、もし落ちたらどうしようって考えちゃう。
──パパとママにガッカリされたらどうしよう。
──嫌われちゃったらどうしよう。
みたいな感情に追い立てられるんだよ。
アラフォーの私でもメンタルに結構来るんだから、本当の子供なのに受験やらお受験やらするお子さん達……マジリスペクトっすわ。
と、余談はさておき。
受験の結果ですが──
黒帳美夜こと黒岩宮子は、猛勉強の甲斐もあって、無事エターナルスター学園の入試を突破することが出来ましたーーーーっ!
ドンドンヒューヒューパフーパフー。
あ、喜び方が古い? すんません。いや、テンション上がっちゃってね。
だって、初体験だったんだよ! カレイドシステム!
カレプリのアニメでは見慣れてたけど、自分がまさか体験することになるなんて!
カードが衣装に? AR空間でライブ? お客さんのイイねを読み取って数値化?
なにその超科学力。アイドル関連の科学だけ、数世代先を歩いてない?
とか野暮なことは言うまい。
だってここはカレイドプリンセスの世界なのだからー。
なのだからー。
ごめん。カレイドシステムとライブがアホみたいに楽しかったから、思考もアホみたいになっちゃった。
でも、あまりの楽しさに夢中になってライブ試験の記憶あまりないんだよね。
審査員の先生たちが、何だか見てはいけないモノを見た的な表情だったから、大失敗したんじゃないかと、試験ぜったい落ちたーって慌ててたんだけど。
「でも、結局受かってたみたいだし……何だったんだろうな、審査員のあのハトが豆鉄砲喰らったみたいな表情は……」
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