第47話 優しい世界に潜む影
「そうか、ハルカ君の家が……それは難しい問題だね」
「お金の話ですからね。それに、学園長の対応も気になりますわ……」
「うーん。単純にお金をあげるだけなら簡単なんだけどなぁ……ひかりも結構稼いでるし」
エターナルスター学園のカフェでビッグいちごパフェを食べながら、私たちは星空家を助けるための方法を考える。
『いちごパフェ食べてる場合か!?』とツッコまれそうだけど、意外にもこれはクレアちゃんの案。
「狭い部屋にこもっていてもいい案は浮かばないよ。そうだ、甘いものでも食べながら考えようか♪」との事。
だからっていちごパフェ(しかもビッグサイズ)じゃなくて良いんじゃないかと思ったけれど、やっぱりカレプリと言えば、いちごパフェなんだよねぇ。
体重管理いなきゃいけないアイドル達が、毎度毎度、いちごパフェをバクバク食べる。
さすが女児向けアイドルアニメ。女の子の基礎代謝が異常です。
ああ、でも食べ過ぎてハルカちゃんが激太りするっていう、伝説のカオス回もあったっけ。
「黒帳美夜らしいやり方……か。学園長も何を考えているのか分からないね……」
「あの方は学園のアイドルのことを一番に考えてくれていると思っていたのですが……」
「ひかりは難しいことは分からないけど、単純に悪い奴がいてバーンってやっつけられる事件だったら簡単だったのにね」
ひかりちゃんがスプーンを握ったグーでパンチするふりをする。
お行儀悪いからやめなさいね。可愛いけど。
「悪い人ですか……。でも最初に、お店の悪口を書いていた人は、もう捕まっているんですものね」
「だね。捕まえたところで、お店のダメージが癒えるわけじゃないからね」
「悪い奴……か」
みんなの言葉をぽつりと繰り返す。
確かに、悪いやつを成敗して終わりなら話は楽なんだけれど。でも、カレプリのアニメ全104話の中で、まず悪という存在が現れたことはなかった。
カレイドプリンセスは、とてもやさしい世界だから。
そんなところが大好きなんだけど、まさかカレプリに悪人がいれば良かったのに……なんて思う日が来るとは、人生分からないものだ。
「うーん、でも、何だろう。何か引っかかる……」
今の会話の流れで、何か大事なことを見落としているような……。
――と、そんな疑問に首を傾げていたその時、突然スマホが着信メロディを奏でる。
電話の相手を確認した瞬間、私はスマホを落としそうになるほど慌てて電話に出る。
「もしもし、ハルカ!? どうしたの?」
「あ、美夜さんですか?」
私の心配をよそに、ハルカちゃんの声は意外にもカラッとしていた。
「ハルカ!? そっちは大丈夫なの? ヒモジイ思いしてない? ちゃんとご飯食べてる? 学園長にはお金の件は断られちゃったけど、絶対、明日までに利息分くらいは何とかするから!」
「ふふ、美夜さん、借金取りに追われてる人みたいになってますよ」
確かに。利息分ってなんだよ。テンパりすぎだろ私。
「そ、それだけあなたのことを心配しているということよ。エターナルスター学園の女王としては? 後輩のことを? 心配するのは当然だから?」
「美夜さん無理しちゃって。一言一言に?が付いてますよ」
「い、いいでしょ、別に!」
でも、本当にどうしたんだろう。
昨日はあんなに苦しそうだったハルカちゃんの声。でも今は晴れやかに聞こえる。
「あの、実は私のアイドル活動を応援してくれる人が見つかって、星空カフェに資金援助をしてくれるらしいんです」
「ほ、本当に!?」
「はい。お店のこと色々相談に乗ってくれていた銀行の人が居るんですけど、その人の知合い方が……是非支援したいと言ってくれているそうなんです」
あ、あはは……なんだ。何だよ、やっぱりここはカレプリの世界じゃん。優しい世界じゃないか。
くそー心配させやがって。昨日の私の涙を返せ!
「そっか……そっかぁ……良かった。本当に良かった」
「本当は内緒にしなくちゃいけないんですけど、美夜さんにだけはどうしても伝えたくって……」
「うん、うん、教えてくれてありがとう、ハルカ」
はは、都合良い展開だなオイ。でも、ここはカレプリの世界。
アニメと同じで良い人ばかりの優しい世界なんだ。
「心配してくれてありがとうございました。でもこれで大丈夫です。エターナルスター学園に戻れます。私、美夜さんと一緒にアイドルを続けられるんです!」
□■
「そうかハルカ君を支援してくれる人が見つかったのか。良かったじゃないか、美夜くん」
「ですわね。でも、これで優秀な後輩が帰ってきますし、わたくし達もうかうかして居られなくなりましたわね」
「美夜ちゃん? いつのまにハルカちゃんと連絡先交換してたのかな? ひかりの全国ツアー中に浮気ですか? 事件です?」
頭を悩ませていた問題が、突然解決して場の空気が緩む。
ひかりちゃんだけ何か違うところを気にしているけど……。
「でも、こんな偶然があるんだね。カフェの常連さんが銀行員で、カフェのことで相談に乗ってもらっていたら、その人の紹介で支援してくれる人が見つかるなんてね」
「うん。というか、元々はハルカの教育ローンの相談で知り合ったらしいわ」
ハルカちゃんとのさっきの電話でそう聞いた。
真々田さんという人らしいけど、まさしく救世主のごとき大活躍だ。
「ハルカさんは素敵なアイドルさんですから、きっとアイドルの神様が見ていてくれたに違いありません」
マリアちゃんがうっとりとした声を出す。
「アイドルの神様か……本当にそうかもね」
何しろ星空ハルカは、カレイドプリンセスの主人公。アイドルの神に愛されていないはずがないのだから。
「じゃあ、その銀行の人は神様の使いみたいな?」
ひかりちゃんがくすりと笑う
神の使いか……ひかりちゃんも面白いことを言うなぁ。
「救世主、神の使い……それに優しい世界か…………」
これで事件は無事解決……したはずなのに……やっぱり、どうしても何かが引っかかる……。
でも、この違和感の正体は何だろう……。
――カレプリは小さなお子様向けの優しい世界。
――悪人なんていなくて、ご都合主義みたいに良い人ばかりの世界。
そこに、何か決定的な矛盾があったような。
「…………そうだ、やっぱり変だ……」
子供向け? 良い人ばかりの優しい世界?
だから、カレプリの世界には悪意は存在しない?
「違う、そうじゃない。だって――」
――だって私はもうすでに、この世界で〝人の悪意〟に遭遇しているじゃないか!
「美夜ちゃん、どうしたの?」
「ひかり、私、分かったかもしれない」
そうだよ。少し考えればすぐに気づく答え。
だって〝星空カフェに対する口コミの嫌がらせ〟は、紛れもない〝人の悪意〟だったじゃないか。
優しい世界? 悪意のない世界? 笑わせてくれる。
間違いない。この世界にはアニメでは描かれることのなかった〝悪意〟が存在するんだ。
そして、それを前提として、順序立てて考えるならば――
――高額なエターナルスター学園の学費。
――そこに追い打ちをかけるような口コミの嫌がらせ。
――弁護士費用に賠償能力の無い犯人。
――追い詰められたハルカちゃんの前に、唐突に現れた支援者。
星空家に次々に降りかかる災難。そして、最後の最後に、蜘蛛の糸のように現れた支援者。
まるで、誰かが書いたシナリオのように整っていないか?
もし私の推測が正しいのだとしたら――。
「もしかしたら、ハルカが危ないかも知れない……」
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