第36話 初めて、自分を好きになれた気がする。
ハルカちゃんの衝撃的なスペシャルプリマアピールから一カ月が過ぎた。
あれから私は表面上はスタープリマとして淡々とアイドル活動をこなしてきたけれど、その心の中ではずっと悶々とした日々を過ごしていた。
「わっけわからないよーーーー」
エターナルスター学園にある学生寮。その自分の部屋の中で、私はベッドでわたわたと手足をばたつかせる。
「どうして? 何で? 私、デカい口開けてハンバーガー食べてただけじゃん? 正体バレそうになって、ダッシュで逃げただけじゃん?」
それで何でハルカちゃんがスペシャルプリマアピールに成功しちゃうんだよぉぉ。
「スペック落ちるならまだ理解出来るけど、アイドル力爆上げって、どういう事案だよ、もー!」
すると、ガチャリとドアが開いて、ひかりちゃんが顔をのぞかせる。
「美夜ちゃーん、始業式始まっちゃうよ~。美夜ちゃん、編入生歓迎の挨拶も任されてるでしょ?」
「今行くわ(キリッ)」
瞬時に身なりを整えて何事もなかったかのように振る舞う。
「少しバタバタしてたけど、どうかしたの美夜ちゃん?」
「編入生歓迎の挨拶を手直ししてたの。ちょっと練習のつもりだったけれど、思ったより熱が入ってしまって(キリッ)」
「そっか、美夜ちゃんは相変わらず真面目だね~」
そう言って、えらいえらいと頭をよしよししてくれるひかりちゃん。
ああ、私の親友、かわゆすなぁ。
□■
夏休みが終わり、二学期の始業式が始まる。
カレプリのアニメで言うところの、第一話の時間軸に追いついたとも言えるこの時期。
手違いさえ無ければ一年生の席のどこかに星空ハルカちゃんが座っているはず。
自分の席までの道すがら、一年生の顔ぶれを確認すると──居た。良かった……ハルカちゃん。
あれだけのステージをやってみせて不合格なんてことはあり得ないとは思っていたけど、顔が見れて本当の意味で肩の荷が下りた気分だ。
ていうか、私も審査員だったから、ちゃっかり最高得点つけちゃったしね。
すると、ハルカちゃんも私の姿に気付いたのだろう、二人の視線が合う。
前回みたいにまたぶんぶん手を振られたらどうしようかと心配したけれど、前回大騒ぎになって懲りたのか、今度は嬉しそうな顔でちっちゃく手を振ってくる。
ああ、でもこれはこれでやばい。
まるで秘密の恋人同士のコンタクトみたいで、頬が熱くなる。心がきゅんてなるわ。
□■
その後、私は無事に挨拶を終え、始業式は何事もなく終わった。
「美夜様のあいさつ、素敵だったね」
「うんうん! 私エターナルスター学園に入学できてホント良かった。もう、悔いは無いって感じ!」
「いやいや、早すぎるでしょ。目指せスタープリマはどうしたのよ?」
退場するとき、そんな私を称賛する一年生たちの声が小耳に触れる。
良かった。私はちゃんと美夜様を演じることが出来ているようだ。
一年生の席には星空ハルカちゃんだけでなく、初代カレプリのメインキャラである、
それに小学生時代に戦いアイドル界に導いた他のアイドル達も。
やり遂げたんだ私。
黒帳美夜として、カレイドプリンセスの世界を守ることができたんだ。
そう思うと、自然と涙がこぼれそうになる。
「美夜ちゃん、どうしたの? 泣いてるの?」
「ううん、ちょっと、あのピヨピヨだった一年生たちも立派になってきたなと思ったら、ちょっと感極まっちゃって……」
「そっか、そうだよね。お仕事を貰える子もちょっとずつ増えてきたみたいだし、みんなちゃんとアイドルの顔になってきたもんね」
「うん、そうだね。アイドルの顔になってきた。ひかりと違って」
「ちょ、美夜ちゃんひどーい」
「あはは、冗談。冗談だって」
ぽかぽかと両手で私の肩を可愛く叩くひかりちゃん。
私たちのじゃれ合いをちゃっかりシャッターに収めているまりあちゃん。
それを見て、あははと警戒に笑っているクレアちゃん。
今、私幸せだなぁ。
でも、前世であれだけ酷い目に遭ったんだし。生まれ変わってからも、あれだけ努力を積み重ねてきたんだし。
これくらいの役得があっても良いよね!
ここ最近、少し不安になっていた。
アニメの展開と、色々違うところが目立ってきたから。
でもそうだよ、何を悩む必要があるだろうか。
少し手違いはあったけれど、みんなエターナルスター学園に来てくれた。アイドルになってくれたじゃないか。
黒帳美夜に生まれ変わってからのこの七年間、本当に大変だったけれど、私はやり遂げた。
初めて、自分に自信が持てた気がする。
初めて、自分を好きになれた気がする。
私だってやれるんだ。
この後だって、私が黒帳美夜として振る舞えばおかしなことにはならないはずだ。
このままエターナルスター学園のトップアイドルとして、アイドルシーンを駆け抜ける。
最後は、アニメのストーリー通りに卒業ライブでハルカちゃんに敗北、スタープリマの座を譲ると同時にアイドルを引退。
後進の育成のために、エターナルスター学園の学園長としてその手腕を発揮する!
「ねえ、ひかり。私、アイドルを引退した後は、エターナルスター学園の学園長になるわ!」
「え、もう引退した後の話? 美夜ちゃん、気が早くない!?」
ふひひ、なんて素敵に完璧な人生設計!
さあ頑張るぞ。
目指せ! 大好きなアイドルに囲まれた、悠々自適な学園長生活! ――なんてね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます